推しの推し (ページ14)

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本名ページ14

≫髙橋 side

『A！？？何処にいるの！？』

電話の相手方、女性の大きな声。

通話はスピーカーにはなっていないはずだけれど、余程大きな声で話し掛けているんだと思う。

すぐ側に居た俺の下にまで聞こえてきてしまうくらいだから。

“A”、俺の耳には確かにそう聞こえた。

文脈兎も角、多分これは彼女の名前、本名だ。

“A”と言えば、俺の中では“AA”。

まさかそんな偶然、彼女な訳が無いのに。

良くある同名ってやつとは思うけれど…その名前に俺の胸は騒ついてしまう。

ひとり気持ちを落ち着かせようと奮闘していると、目の前の女の子は通話のため背を向けていたのを、くるり身体の向きを変えて俺と向かい合う。

「あの…大変烏滸がましくも、ひとつお願い聞いてもらえませんか」

通話…というか、見た限り一方的に喋られていたような感じのやり取りを終えたらしい女の子は、“お願い”と言っておずおずと俺に尋ねてきた。

「元々約束をしていた者がここまで来てくれるというので…それまで一緒に居て頂けませんか」

多分、さっきの電話の相手に頼むように言われたんだと思う。

「あ、全然…俺で良ければ」

「本当にすみません。お時間大丈夫ですか、ご予定とか」

他人を巻き込むことになるなんて俺は勿論だけど、女の子も思わなかったんだろう。

“ご迷惑お掛けしてすみません”と何度目かの謝罪で頭を下げようとした女の子の肩を抑えて、俺はそれを制止した。

「これで家帰るだけだったんで、全然へーきっす」

だから、そんなに頭下げないで。

そんな風に俺は言葉を続けて少し表情を和らげた。

実際、このまま彼女を置いて去るのも何となく心配だったし、その友人さんが合流してくれるならその方がずっといいかも知れない。

それに“ただの社会人さん”は“ただの社会人さん”。

互いに自己紹介をして本名を知るなら兎も角、今偶々耳にしてしまった本名は、今はそっと、俺の胸にしまっておくべきだ。

一旦、彼女の名前については考えるのをやめよう。

すぐ側のベンチに腰を下ろそうと女の子にも促して、2人並んで座った。