推しの推し (ページ13)

今日:24 hit、昨日:15 hit、合計:29,127 hit

視聴者さんページ13

≫A side

何て答えればいいのか考えを巡らせている横で、どうしてバレたんだろうという疑問も同時並行に巡る。

「あ、俺…よく動画見させてもらっていて、」

さっきの不審者あっての今、だ。

私が急に黙って何も言わないのを警戒しているとでも捉えたのかも知れない。

どうしてそんな質問をしたのかというのを、青年は少し慌てるような雰囲気で捕捉をしたのだ。

…いや、待って。

そう言えば今の私の格好、キャップ帽にマスク…投稿している動画内の服装と被っている。

視線を自分自身へと落として何となく納得がいった。

ああ、そっか、視聴者さんだったらピンと来てしまうのかも知れない。

「あ…あはは、そう、動画上げてます」

ぎこちなく、ぎこちなく。

“ただの社会人”として声を掛けられたのは初めてだったから、どう切り返せば良いのか分からなかった。

会話も続かぬまま、ただ気まずい空気が流れるのかと思った瞬間。

その場に鳴り響く着信音は私のスマートフォンからのものだった。

『A！？？何処にいるの！？』

音割れする程の大きな声が耳元に響く。

落ち合う約束をしていた例の友人だ。

「あ…ちょっと…トラブって」

『トラブってって…大丈夫なの！？？今から向かうから！！人居るとこにいて！！』

「あ…うん、ごめん…助けてくれた人いるから、大丈夫」

『え？側にまだ居てくれてるの！？じゃあ私行くまで一緒に居てもらってよ！！』

ほぼ一方的に友人が喋った後、ブッ…と通話は途切れた。

私に対する心配とは言え、到着までもう少し一緒に居てもうって…無茶を言う。

私の手の内のスマートフォンは、ツー…ツー…と機械音を寂しく一定のリズムで刻んでいた。