推しの推し (ページ11)

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不審者ページ11

≫髙橋 side

ある夜。

仕事の帰り道の出来事。

何かぶつぶつと話し声がすると思ったら、歩みを進める通りの脇道に入った陰で男の人が若い女性に声を掛けていた。

思わず歩みを止め視線を向ける。

見る限り明らかに顔見知りって間柄じゃ無さそうで、女の人は怖さでかその場から動けずにいた。

何かやばそう。

だけど、俺が行って干渉していいやつ？

めちゃくちゃ面倒なやつだったら…とか、色々考えていたら、いよいよ男の人が女の人へ手を伸ばした。

それが目に入った瞬間、俺は2人の元へと駆け出していて、

ーードカッ

男の人が触れる前に俺は体当たりをするように男の人にぶつかると、2人の間に割って入った。

「ってぇ〜…！」

勢いでそのまま後方へ尻餅をついた男の人。

怯んでいる隙に動けずにいた女の人の手を取って、“行こ”と声掛けて走り出す。

俺の一歩後ろにいる女の人は突然の事に驚きつつも、脚を縺れさせながら必死に俺に付いて来てくれた。

兎に角、やばそうなあの男の人から只管に距離を置くべき。

俺らは必死だった。

どれぐらい走ったか。

俺もあまり人気の多い場所を選んで走るわけにもいかなくて、結果辿り着いたのは児童公園。

昼間の日があるうちはきっと、小さい子やその親御さんとか散歩中のご老人とか、休憩中のサラリーマンとかで賑わっているんだろうけど…今この時間帯は疎らで静か。

「取り敢えず、ここに隠れましょ」

そう声を掛けて、公園入ってすぐの脇に立つ大きな欅の幹の陰に俺達は一先ず身を潜めようと隠れた。

「すんません、急に手を引いて走ったりして…警察、行きま、す…？」

ハァ、ハァ…と乱れた呼吸を整えながら、漸く俺の後ろを付いて走って来てくれた女の子の姿をしっかりと視界に捕らえた。

…あれ…？

何か見たことある、気がする。

声を掛けながらそんな事を頭の端で思って、言葉がつい途切れどきれになる。

女の子は肩よりやや下に伸びる髪をキャップ帽に収め、そしてその顔の半分は不織布マスクによって隠されている。

一見、誰が誰だか分からない見かけ。

けれど、その姿が一層“誰か”を思わせるのだった。