積乱雲やら入道雲やら ページ41
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いつも通りの坂道をいつも通り自分の自転車に乗って、いつも通り颯くんの背中を眺めながら下っていく。
セーラー服の襟がパタパタと風になびく。
中高一貫校の中3なんて気楽なものだ。夏服に移行した6月下旬。梅雨の文字は何処へやら。後ろを向くと坂の上に、大きな大きな入道雲がふてぶてしく居座って夏の始まりを告げてくる。
「夏だねぇ」
「ん?なーに」
いつも通りの優しい声。甘くも聞こえるその声になんだか照れ臭くなってしまって、
「なーつー!」
と、子どもみたいに後ろから笑った。
声でか、って颯くんも笑ってくれて、2人でそのままげらげら笑った。
安心できる人の笑いは、めちゃめちゃ伝染する。
ふぅ、と深呼吸すると同じタイミングで颯くんの肩もすとんと落ちた。
背中に顔を埋めると、汗かいてるよ。と少し冷たくあしらわれた。他の男子みたく臭くないもん。
去年の夏だってこうしてたじゃんか。
忘れちゃったんですか、颯くん。
クラスの男子の中では小さい方だけど、私よりは確実に大きな背中。でも痩せてて、中学生って感じ。
よくわからないけど。
白い背中に書いた『すき』の2文字は、果たして颯くんに伝わっただろうか。
くすぐったがっていたから多分答えはノーだろう。
いいんだよ、知らなくて。
中2の春からずっと、伝わらない方法で伝わらない思いを、ただ自転車の後ろだけで伝え続けている。
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沙月(プロフ) - な、僕の初めて覚えて、好きな百人一首じゃないか...つられて読みにきたらおもしろい...お気に入り登録させていただきました! (2019年9月25日 22時) (レス) id: b7d8d46a43 (このIDを非表示/違反報告)
そら(プロフ) - すぺるさん» わあああ!!!!!できました(;-;)ありがとうございます恩人です本当にありがとうございます(;-;) (2019年8月10日 22時) (レス) id: b994d8a981 (このIDを非表示/違反報告)
すぺる(プロフ) - 続編は、前編の編集ページの最後らへんに挿入部分がありますよ…! (2019年8月10日 21時) (レス) id: bc24737c16 (このIDを非表示/違反報告)
そら(プロフ) - マロンさん» ありがとうございます;;調べたところそのような事例もあるようなのでご都合主義が過ぎますが、修士を飛ばすという形にさせていただこうと思います。参考になりました!本当にありがとうございます! (2019年7月27日 8時) (レス) id: b994d8a981 (このIDを非表示/違反報告)
マロン(プロフ) - はじめまして。大学院の制度ですが私の高校の時の恩師が大学卒業後修士をすっ飛ばして博士に通ってました。学校によるのかもしれませんがそういう制度があるにはあるみたいです。ただし審査がとても厳しいみたいですが… (2019年7月27日 0時) (レス) id: 84c575c695 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:そら | 作成日時:2019年7月20日 8時