一度、出逢ってしまったら[完] (ページ38)

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彼女の頬を両手で覆うと目尻に軽く唇で触れ、ぎゅうっと、そのか細い身体を抱き締めた。

「…A。好き。…好き、だったよ、、」

『～っうぅ…。私も好きだったっ、、大好きだったよっ…』

そう言い合いながらこれでもかと抱き締め合った。

…ねぇ、気付いてる？

Aは俺は"好き"をくれないって言ってたけど、あなただって俺に"好き"なんて一度も言ってくれた事はないんだよ。

今がお互い最初で最後の"好き"だったのにもう過去形なんだよ。

俺達はずっとすれ違ったまま終わりを迎えちゃったんだね。
四年も一緒に居たのにその想いは一度も交わる事なく。

でも逆に言えば、俺達の出逢いはそう言う運命ではなかった。って事だ。

…皮肉なもんだよね。

「…幸せになんなきゃ許さないから」

『…ふふ。どうだろ』

「大丈夫だよ。アイツなら」

あの日、あなたを追い掛けていく必死な目は確かだったから。
だから樹にあなたを託したんだ。

…どうせあそこで奪い返してたとこで運命が変わるわけじゃないでしょ？

「…ね。ちょっと目、瞑ってくれる？」

『、え？ …こう？』

…あーぁ。ちょっとは疑いなよ。
そう簡単に男の前でスキ見せたらダメなのに。

この先、思いやられるけど大丈夫そ？
まぁ俺みたいな男に取られないようにこれからはしっかり捕まえときなね。…樹。

俺はAの唇に口付けた。

『っ…、んっ、んんん…！！』

胸板をドンドン叩かれたけどぎゅっと抱き締め、更に深く深く口付ける。

『、やっ、っほく、んんぅっ…、』

次第に抜けてく力をグッと支えながら。
…ごめんね。本当にこれで最後にするから。

感じさせて欲しい。残したいんだ。
君の感触を、温もりを。少しでも長く俺の中に。

「……ごめんね。ありがと」

そう言いながら俺の腕の中でハァハァ…と荒い息を上げてるAの頭を撫でる。

…これは俺の醜い抵抗だ。
俺の事、簡単に忘れて欲しくないっていう単なる悪あがき。

これくらい良いでしょ？ …最後なんだから。

「……元気でね」

『……北斗も、元気で』

"さようなら"

それを最後の言葉にAは俺から離れていった。

「…好き。好きだよ…。A…」

すぐには忘れられないけど。

…どうか幸せに。

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