視線、交わる。 (ページ9)

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9話ページ9

妊娠休暇中の片瀬先生は2-Bと2-Cのみの担当だったらしく、自動的に俺の担当も2クラスのみに。

今までは小学生から高校生までを教えてたから予習の量なんて馬鹿にならん量やったけど、これやったら介護しながらでも今んとこ余裕やな、なんて少し安心。

職員室のデスクに荷物を移したり挨拶回りとか学校ぐるぐる回ってみたりとかしてたら、自然と転校の多かった子供時代を思い出していた。

初めての転校はちょっとワクワクしたりもしていたけれど、2回目からは知らず知らずのうちにうんざりしていた。

転校を重ねるうちに人に心を開くことを諦めていた自分に気づいたのは大人になってこの職に就いてからのことだった。

いつも兄貴は周りにすぐ馴染んで友達を広げていって、転校した先でも前の学校の友達とはずっと連絡を取り合い、新しい学校でもまた同じように周りに溶け込んでいってた。

そんな兄貴が、羨ましかった。

運動神経は抜群で、何をやらせてもすぐにこなせる天才肌。

性格も明るくて誰にでも平等に接して、困った人がいたらすぐに手を差し伸べる。

そんな兄貴とは正反対で、俺は人見知りでどちらかって言えば努力型。

そんな努力が報われないこともたくさんあった。

唯一兄貴に敵うのは、勉強しかなかった。

敵う、とは言っても兄貴はお母さんのイソフラボン入りのジェルの化粧水を豆乳やと思って飲んだり電柱に突っかかったりおいなりさんをスイーツやと思ってるような相手。

でも天才な兄貴は本気出したら軒並み90点取ってくるような男。

そんな兄貴を引き離す一心で必死に勉強して塾講師の夢を叶えた俺と、企業に就職して新しい家庭を築いた兄貴。

俺たちはまるで、太陽と月みたいだと、幼い頃から今に至るまで、ずっとそう思っている。