そして、青空へ墜ちていく (ページ9)

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「なんだ？」

「先生は障害者という言葉が差別用語であり、正確には害を平仮名で書くと言いました。しかし、現在の日本においては前者の方が一般的であると思うのですが、いかがですか？」

講師の目が険しくなった。「それはどういう意味だ？」講師は彼に対し露骨な敵意をもって聞き返した。

「その前に俺の質問に答えてくださいよ。
障害者に対しての制度や法の名称ではさっき彼が書いた呼び名が使われていますが、先生の言葉を借りればそれ自体が差別だということですよね。日本政府も、障害者を支援する団体も、障害者差別に加担しているということですか？」

「その通りだ、彼等はさっきの奴のように無意識にそれをしてしまっているんだ、だから私達が声を上げていかなくてはいけない。そのために末端の君達にまず理解してもらわないといけないからこうやって時間を割いているんだ！」

「ということはまだ差別用語として浸透しているわけではなく、あくまで先生の主張として『障害者の害という字を漢字で記載することは差別』だとしているにすぎないわけですよね？
それは差別用語として断定するには早計すぎるような気がしますがどうでしょうか？
ちなみに政府が差別に加担しているとなると、政府は憲法第14条に違反していることになりますよね。俺だったらそんな大々的な違憲行為を知っていたら、こんなところで呑気に俺達に講義をする前に政府へ講義活動でもしますけどね。

先生、貴方一個人の主張をあたかも事実であるように指導することは偏向教育に近いのではないですか？俺はこの大学に嘘の知識を得るために来たわけじゃないんだ。」

彼はそれ以上何も言うことなかった。
彼は講師から教室の側面にはめ込まれた窓に視線を向ける。その窓からは季節外れの葉桜の枝が青い空に亀裂を作っていた。

講師の顔はみるみる真っ赤になっていき、唇をわなわなと震わせていた。それでも、講師はそれ以上彼に何も反論することはなかった。

講師は咳払いをすると、まるでさっきのやりとりがなかったかのように講義を始めるしかなかった。

そのあとしばらくしてだ、講師に反論した男子学生の携帯がいきなり鳴りだしたのは。鞄から取り出そうとした彼に対して「講義中携帯で話をする不届き者」と『今時の学生』と講師はレッテルを貼り、「講義の態度が一番悪く今まで目をつぶっていたが限界だ」「医学生は勉強しかできない人間の屑しかいない」などあることないことを散々怒鳴り散らした。