そして、青空へ墜ちていく (ページ8)

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２０名ほど入る教室で開かれていた「障がい者の人権問題」という一般教養の講義を瀬戸はちょうど後ろの席で聞いていた。

「君達は障がい者をどう書く？」

講師は黒板を強く叩いて私達に問いかけた。
その目は明らかに私達を見下している。

その講師は学生の間から『障害者を優遇するヘイトスピーチ野郎』と揶揄されているので有名だった。
その言葉の端々に『健常に生まれ差別など受けたことがない、人の苦しみも理解せず自分達の主張ばかりを押し通す今時の学生』を攻撃する内容が含めているのだ。

そしてこの講師はそのレッテルを自分の気に食わない生徒にすぐ貼ってしまうようなどうしようもない人間であった。

学生の一人が当てられた。明るめの茶色に染めた今風の男子学生だ。彼は、よく講義中にトイレに行くことが多く、授業に遅れることも何度かあって、そのせいで講師に『今時の学生』というレッテルを貼られていた。
男子学生は警戒するようにゆっくり席から立ち上がると黒板に『障害者』と書いた。
講師がその様子をじっと見つめ、男子学生が書き終えると同時に口を開いた。

「君は障害者の顔を考えてこう書いたのか？それとも何も考えず、無意識でこう書いたのか、どっちだ？」
「いや、普通に書いただけですけど。」
学生が答える。

「普通とはなんだ？無意識ということだろう？それとも『障害者』と書くことが普通の思考だと考えているのか！？」

講師は水を得た魚の様に嬉々とした目で学生に声を荒げ始める。

これからあの学生に対して個人攻撃をしながら自分の持論を展開するのだ。

「いいか、この『障害者』という言葉だけでも障害を持つ人へは差別用語になっているんだ、『害をある者』と見えるだろう。これは五体満足の健常者は全く持って理解できないことだろうが、自分に置き換えてみろ。まぁ、最近の学生は誰かの立場に立って物事を考えられるほど頭の弱い奴も多いからな。害を平仮名で書く、障害のある人と書くのが正しい。まぁ、まともに授業を受けていない奴に障害のある人の気持ちを理解しろなんて難しかったな。すまんすまん。」

講師は項垂れている学生に最後は笑みを向け、その肩をわざとらしく叩きそのまま席の方へ押しやった。

「先生」

学生が席に戻った後、真ん中の席に座っていた男子学生の1人が手を上げた。