そして、青空へ墜ちていく (ページ4)

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――大学なんて、こんなもんだったんだな――

解剖学に載っている人間の身体の一部の写真は全てホルマリンに漬けられて、木の幹の様な茶色に変色していた。始めの頃はこの写真にグロテスクさを感じながら、今までの人生で見たことのない人間の死体にある種の興奮を覚えていたが、それも何度も見るとグロテスクと思わなくなるのと同時にその興奮も薄れていった。

ページを捲る。

自分が昨日見た写真の次のページに載っていたのは、人の頚部と呼ばれる喉の辺りの写真だった。
一番手前に見える大きな二つの筋肉は胸鎖乳突筋だ。鎖骨の辺りから耳の下までをつないでいる。
大動脈から枝分かれした総頚動脈は喉を通り頭まで伸び、中央には蝶のような形をした甲状軟骨と、小さな骨が連なった椎骨が覗いている。この写真では見えないがこの椎骨の下には椎骨動脈が流れていて、総頚動脈と椎骨動脈を頚部大動脈と言い脳へ送るほとんどの血液はこれらの動脈によって供給されているはずだ。
つまり、この３つの血管を完全に閉塞してしまえば、脳への血液供給は遮断されることになる。

ここまでのことは講義でなくてもネットで調べればすぐに出てくることだった。
藤本は数十秒ほどでその写真と各名称を覚えると、気怠げにページをめくる。

大学というのがこんなにもくだらないものだとは思っていなかった。
大学ではもっと、それこそ世界の見方が変わるようなことを教えてくれると想像していた。
少なくとも、自分の想像のベースとなった漫画やテレビの中の大学はそんな場所であったはずなのに。
期待を持たせておきながら開けてみればこのありさまだ。

専門科目ならまだ自分の将来に直結するため少しは興味を持てるが、全く関係のない一般教養なんてものは時間の無駄としか思えなかった。
その90分の時間の中でできることは山ほどあるのに、『2/3の出席がないと単位は渡さない』『一般教養の中でこれだけの単位を取得できないと卒業できない』といったふざけた条件と、『医学科の学生は不正が多い・不真面目だ』という講師陣の勝手な思い込みのせいで、自分達医学科の人間は他の学生以上に真面目風を装わなければ即、単位を取り上げられてしまうのだ。

藤本は何日か前のことを思い出す。

今思い出してもはらわたが煮えくり返りそうになるのだ。それは自分が「障がい者の人権問題」という授業を受けていたときだった。