第111話 雨のあとで ページ30
トリエルside
「A……謝らないで。貴方は、本当に優しい子ね」
『そんなこと…』
サンズに肩をそっと叩かれながら瞳に涙を溜める彼女の、その真っ直ぐな想いに、閉じていた様々な感情が解かれていくのを感じた。
「いいえ、貴方はとっても優しいわ。……優しすぎて、こっちが心配になるくらい。私たちの為に、そんなに泣いてくれてありがとう、A」
『いえ、そんな……ただ、私は、この世界の皆が大好きだから…』
「ふふ……そんな貴方に、きっとこれまで沢山の皆が救われたのね。今の私みたいに」
『え……』
きょとんとする彼女の表情がなんだかおかしくて、私は頬を緩めてしまった。幾分穏やかになった気持ちで、私はアズゴアに向き直り、回復を再開した。
「最初はね……この人が目を覚ましたら、ビンタでもしてしまおうかなんて考えてたのよ」
私の発言に、二人は動揺した様子で顔を見合わせた。
「でも、Aの言葉を聞いて、考え直すことができたわ。ちゃんと、もう一度この人と向き合って、話をしてみようって」
『! 本当ですか…?』
「ええ。だからその為にも……早くこの人を回復してあげなくちゃね」
「ああ、そうだな。オレも、それが一番だと思うぜ」
嬉しそうに頷く二人に微笑みを返して、私は本格的に意識を両手に集中させた。
どうか、早く目を覚まして――
そんな願いを込めながら、彼に手をかざし続けた。すると、ふいに彼が肩を小さく震わせたのがわかった。
「!」
『アズゴアさん……!』
「もう少しね……」
気が付けば二人も彼の元に駆け寄り、固唾を飲んで彼の様子を見守っていた。そして、暫くして、彼はついに瞼を開いた。
「デイビッド……アズ、リエル……!すまない、私は……」
うわ言を呟いた彼は、とうとう意識を覚醒させると、驚きに満ちた表情で私を見つめた。
「! トリィ……まさか、本当に君なのか…!?」
「ええ、そうよ。ハァ……全く、手間を掛けさせて」
「すっ、すまない…。でも、どうして来てくれたんだい?」
起き上がりそう尋ねた彼は、すぐにAとサンズの姿に気が付き、瞳を震わせた。
「もしかして、君たちが……?そうか……ありがとう、二人とも。本当に…!」
彼は俯き、悔し気に肩を震わせた。その姿と、Aの言葉が重なり、私は心が痛むのを感じた。
もう、目を背けてばかりはいられない。私は、彼と向き合うことを決心したのだった――
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かしわ(プロフ) - ラヴさん» ラヴ様 長期間お待たせしてしまったにも関わらず、暖かいお言葉で迎えて下さり、大変恐縮です……! このような私をご心配頂いて、本当にありがとうございます! これからこつこつと更新頑張って参ります! (2022年6月5日 11時) (レス) id: c5e96d2eaa (このIDを非表示/違反報告)
かしわ(プロフ) - もちりのさん» もちりの様、初めまして。長い間お待たせしてしまい、本当に申し訳ありませんでした。大好きだなんて言って頂けて、激励のお言葉まで……とても嬉しいです。ありがとうございます!こつこつと更新していければと思います! (2022年6月5日 11時) (レス) id: c5e96d2eaa (このIDを非表示/違反報告)
かしわ(プロフ) - レーニャンさん» レーニャン様 会話になってしまうかもと思い、返信を避けてしまいましたが、やはり返信させてください。 本当にお待たせしてしまい申し訳ございませんでした。激励のお言葉痛み入ります、ありがとうございます!これからこつこつと更新できればと思います……! (2022年6月5日 11時) (レス) @page45 id: c5e96d2eaa (このIDを非表示/違反報告)
ラヴ(プロフ) - お帰りなさい!クラムチャウダー改めラヴでございます。停まっていて、とても心配しておりました…お戻りになられてとても嬉しいです!ご無理のないようお気をつけ下さい。応援しております( ¨̮ ) (2022年6月5日 0時) (レス) id: 906f0fe218 (このIDを非表示/違反報告)
もちりの(プロフ) - 初コメ失礼します。この作品見る専だった時から大好きで…無理はしないでくださいね!更新頑張ってください! (2022年6月4日 6時) (レス) id: 8fca6226df (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:かしわ | 作成日時:2021年8月23日 7時