第100話 失いたくないもの―後編― ページ18
サンズside
オレは、ずっとこの地下世界が好きだった。実験に失敗したあの日から、いくら時が何度も戻されることになろうとも、友達や、遺跡の奥のジョーク仲間、そして……たった一人の大切な弟は、いつも変わらずオレに優しさや笑顔をくれたから。
オレはもう、例え地上の世界に一生戻れなくても、皆がいてくれるならそれでいいと思っていた。
しかし、Aに出会ったあの日から少しずつ、オレの考えは変わった。
諦めていた希望の未来を掴みたい。大好きな皆を助けたい。……過去から目を背けたくないと、強く思えるようになった。本当に、全て彼女のお陰だ。
それなのに。
「んなこと……させてたまるかよ!!」
『っ……』
目の前の彼女は、右腕を掴まれた衝撃に一瞬顔をしかめたが、すぐにオレを見つめて辛そうな顔をする。
ああ、そんな顔が見たいんじゃない。オレはただ……。
「なあ……Aはさっき言ってくれたよな。一瞬でも、オレがどうにかなってしまうのが嫌だって……。そう思ってるのは、自分だけだと思うか?」
『え……』
Aが自分を犠牲にしようとした時、オレは凄く「嫌だ」と思った。
下手をすれば、彼女が目の前から消えてしまうかもしれない。
いつも、オレたちの為に本気で考えて悩んで、怒って……優しい笑顔をくれる彼女が。
そう考えたら、世界とか理屈なんて関係なく、本能的にその右腕を掴んでいたのだ。
ああ、そうか。
そういうこと、だったんだな。
その気持ちを自覚した瞬間、それはすとんと胸に収まって、こんな時なのに、今のオレはどこか穏やかな気分だった。
「……なあ、A」
オレは彼女の腕を引き寄せ、強く抱き締める。突然のことに戸惑う彼女に、オレは精一杯想いを込めて言った。
「頼むから……危険なことはしないでくれ。いつもみたいに、笑顔を見せてくれよ……。オレは……オレの方こそ、一瞬でもAを――失いたくないんだ」
『ッ――さ、んず……』
彼女は目を見開き、やがてそのブラウンの綺麗な瞳から、大粒の雫を溢れさせた。
小刻みに震える、そのか細い腕を、背中を……オレはそっと撫で続けた。彼女が少しでも安心できるように。
「A……頼む。オレのソウルを、使ってくれ。Aが傷付くくらいなら…オレに全部、背負わせてくれよ。大丈夫だ。オレはAを信じてる」
彼女は、悲しげな様子だったが……やがて、弱々しくも、そっと頷いてくれたのだった――
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かしわ(プロフ) - ラヴさん» ラヴ様 長期間お待たせしてしまったにも関わらず、暖かいお言葉で迎えて下さり、大変恐縮です……! このような私をご心配頂いて、本当にありがとうございます! これからこつこつと更新頑張って参ります! (2022年6月5日 11時) (レス) id: c5e96d2eaa (このIDを非表示/違反報告)
かしわ(プロフ) - もちりのさん» もちりの様、初めまして。長い間お待たせしてしまい、本当に申し訳ありませんでした。大好きだなんて言って頂けて、激励のお言葉まで……とても嬉しいです。ありがとうございます!こつこつと更新していければと思います! (2022年6月5日 11時) (レス) id: c5e96d2eaa (このIDを非表示/違反報告)
かしわ(プロフ) - レーニャンさん» レーニャン様 会話になってしまうかもと思い、返信を避けてしまいましたが、やはり返信させてください。 本当にお待たせしてしまい申し訳ございませんでした。激励のお言葉痛み入ります、ありがとうございます!これからこつこつと更新できればと思います……! (2022年6月5日 11時) (レス) @page45 id: c5e96d2eaa (このIDを非表示/違反報告)
ラヴ(プロフ) - お帰りなさい!クラムチャウダー改めラヴでございます。停まっていて、とても心配しておりました…お戻りになられてとても嬉しいです!ご無理のないようお気をつけ下さい。応援しております( ¨̮ ) (2022年6月5日 0時) (レス) id: 906f0fe218 (このIDを非表示/違反報告)
もちりの(プロフ) - 初コメ失礼します。この作品見る専だった時から大好きで…無理はしないでくださいね!更新頑張ってください! (2022年6月4日 6時) (レス) id: 8fca6226df (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:かしわ | 作成日時:2021年8月23日 7時