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小さく震える彼の肩に触れれば、彼は目を瞬かせて綺麗なブラウンの瞳から涙が零れた。
｢え、ちょ｣
あたふたする俺を見て彼は少し笑うとごめん、そう言って続きを話し始めた。
｢あの日、打者入りの実践練習をしていた時、
バッターボックスに入ったのは兄貴だった。
打たれたくなくて、少しでも上手くなった姿を見て欲しくて、いつも以上に真剣に投げた。
雨が降ってて、
視界が悪くて、
手に着いたロージンが少し落ちてて、
俺が投げた球は、捕手にじゃなく兄貴に向かっていた。｣
一瞬だった、そう言った彼が今にも消えてしまいそうで、手を伸ばしてもするりと手の間を通り抜けてしまいそうで。
離れないように、消えないように彼の手に自分の手を重ねると彼は少し驚いた顔をして、繋がれた手に少し力を入れた。
｢その後の事、良く覚えてなくて。
気づいたら病院で、兄貴は酸素マスクを付けてた。
あの時、俺の投げた球が頭に当たって。
当たりどころが悪くて、雨のせいで救急車が来るのが遅れて、病院に着いた頃には結構重症で。｣
憧れだった、そう小さく呟いた彼の目にまた涙が溜まっていて。
憧れてた人に怪我させて、しかもその相手が自分が血を分けた兄弟で、そんなの、辛くない方がどうかしてる。
｢あの時もう少し救急車が来るのが早ければ、
あと時もう少し処置が早ければ、
あの時もう少し雨が降るのが遅ければ、
あの時俺が球を投げてなければ｣
溜まっていた涙が彼の頬を伝った、きっと今も楽しく野球やってたんだと思う、そういった彼の顔は後悔の色しか見えなくて。
｢お兄さんは｣
俺の問いに彼は俺の顔を一瞬見て、小さく不器用に笑った。
｢当たった場所が場所でさ、脳死って言われた｣
脳死、お兄さんの体は生きていてももう、動く事はないんだと悟る。
生きている屍、彼はそう言って繋がれた自分の手を見つめる。
｢俺の左手はね、人殺しの手なんだよ｣
だから、お前みたいな綺麗な人は触らない方がいい、そう言って彼は俺の手を離した。
そんな事ない、と言いかけた俺に遠くから俺を呼ぶ声が聞こえる。
｢呼んでるよ、いってきなよ｣
｢でも｣
｢いいから｣
そう言って俺の背中を彼は弱々しく押した。
▽
くそぅ、文字数制限め、続きます。
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作者名：おえかきちょう | 作成日時：2020年3月5日 3時
