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▽
試合が終わって片付けをしていると後ろから名前を呼ばれて振り返ると、俯きながら俺を呼ぶ成宮の姿があった。
｢…成宮｣
｢話がある｣
ちょっと来て、と言った彼に着いて行くと、人集りが無い校舎まで来る。
成宮は何かを言いたそうに俺の顔を見つめる。
｢あのさ｣
｢なに？｣
ごめん、そう言って頭が膝に着くんじゃないかと言うくらい深く頭を下げた。
突然の行動と、あの成宮が人に頭を下げている事に驚いて声が出なかった。
｢…一樹？｣
｢あ、あぁ｣
｢…やっぱ許せないよね｣
ごめんね、と泣きそうな顔で言った成宮がその場を立ち去ろうとするのを慌てて腕を掴んで止める。
｢ごめん、吃驚しただけ｣
｢え、｣
｢正直、あの時は辛かった｣
泣きそうな顔でうん、ごめんと呟く彼を見て、きっと成宮も辛かったんだろう、あの時辛い思いをしたのは俺だけじゃなくて成宮もだったんだ、と悟る。
｢けど、もう怒ってないよ｣
｢何で？｣
｢何でって…｣
｢俺お前凄い傷付けたよ！？なんで簡単に許せるの？｣
｢何でって言われてもなぁ｣
お前が辛かったのも知ってるから、そう言えば彼の大きな瞳から大粒の涙がこぼれる。
泣くなよ、と彼の涙を拭ってやれば彼は狡いよ、と呟いた。
｢俺、お前の好敵手になれて良かったよ｣
｢…成宮｣
｢だけど！｣
甲子園に行って優勝して、高校ナンバーワン投手になるのは俺だから！お前にはもう負けないから！大声で俺に告げた彼はとても素敵な笑顔で、俺も釣られて笑う。
｢俺も負けない｣
｢いや、負けるね｣
何年も野球から離れてる奴になんか負けないから！と、子供みたいに頬を膨らませる彼に餓鬼かよ、 と呟けば子供だもん！高校生は子供だもん！何て叫ぶ。ふざけ。
｢ありがとな、成宮｣
｢…別に｣
｢俺ももう一度頑張るよ｣
投手、と言えば成宮は満面の笑みで次は絶対勝つ！と俺に拳を向けてきた。
彼の拳に自分の拳を重ねて2人で笑うのは5年越しだった。
▽
明日休みだ、1週間おつかれ自分。
良く頑張った、良く頑張ったよ、さあ呑もう。
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作者名：おえかきちょう | 作成日時：2020年3月5日 3時
