26 ページ28
▽
分かってるよ、あいつがわざとやった訳じゃないって事くらい。
あいつが1番辛いだろうってことも分かってる。
あいつがあれからどんな仕打ちを受けたのか、どれだけ酷いことを言われたか分かってる。
俺もあいつに対して酷い言葉を言った自覚もある。
それでも、エースナンバーを取られた上尊敬してた人まで取り上げられて。
あいつを悪者にしなきゃ、誰にこの気持ちをぶつければいいのか分からなかった。
｢悔しかった｣
｢は？｣
｢あいつは凄いよ｣
同じシニアに入って、同じサウスポーで同学年、背は、俺より少し高かったかな。
俺と同じで負けず嫌いで、我儘だったけど良い好敵手だったと思う。
彼は認めたくないけど才能の塊だった。
俺は才能とか天才って言う言葉が嫌いだけど、そうとかしか呼べない人もいるんだと子供ながらに思った。
そう呼ばれる人がどれだけ努力して、沢山の事を犠牲にしてるか知ってるから。
負けたくなかったし、負けるつもりも毛頭無かったけど、彼が1番以外の背番号を付けてるイメージだけは浮かばなかった。
毎日毎日切磋琢磨して、辛い練習ばかりだったけど楽しかった。
2人とも一真さんに受けて貰らいたいって言う目標があったから。
だけどあの日、雨が降り始めそうだったあの日、打者入りの実践練習をしていたあの日、雨が降り始めて、それであの事故が起きた。
ガンっと大きい音がして振り返ってみれば倒れている一真さんと青い顔をして固まっている彼の姿が見えた。
それから救急車とか色々来て、病院に行ってみれば一真さんは病院のベッドで目を覚ますことは無かった。
憧れだった人を失って、シニアに入った理由を失った俺は、誰にもぶつけられなかったこの気持ちを彼に伝えてしまった、人殺し、と。
その後、周りから人殺しと罵られ続けてシニアを辞めた事、親から虐待紛いの事が始まって毎日新しい傷を作ってきていた事、毎日一真さんの横で泣いていた事。
全部全部知ってる。
知っているからこそ、今更ごめんの一言が言えなくて。
俺がまだ子供だから、未だにあいつを傷付けていることも分かってる。
だけど、誰よりもあいつの事を分かっている自信はある。
｢仲間になって数週間のお前には負けない｣
｢あっそ｣
ちゃんと言うんだ。
今日の試合が終わったらちゃんとごめんって言おう。
ちゃんと大人になろう、そう心に誓った。
▽
成宮君すこ
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 58人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：おえかきちょう | 作成日時：2020年3月5日 3時
