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▽
｢…え｣
御幸のサインに頷いて投げた俺の球は御幸が構えたミットから大きく外れて後ろのフェンスにガシャンと大きな音を立てて当たる。
さっきまでは普通に投げれてたのに、小さく震えている自分の左手を見つめていると御幸がマスクを外してこちらに近づいてくる。
｢どうした｣
｢…ごめん｣
｢大丈夫か？｣
心配そうな顔をして俺の顔を覗き込んで来た御幸の顔を見ると、ポツっと冷たい何かが頬に落ちてきた。
ふと空を見上げてみると、知らぬ間に雲行きが怪しくなってきた天気と静かに降り出した雨。
あの時と状況が重なって、さっきまで平気だったのに、あの時の事がフラッシュバックしてきて。
息が詰まる、上手く呼吸が出来ない。
｢御崎、おい｣
｢…｣
｢おい！｣
過呼吸気味になっている俺を真剣に大丈夫か！？という御幸の声が遠くで聞こえた。
薄れていく景色と、いつもの飄々としてる顔じゃなく珍しく焦っている御幸の顔が写った。
▽
一軍昇格テストが始まって、俺の出したサインに頷い他彼が投げた球は俺が構えた場所とは大きく外れた。
暫く呆然と自分の左手を見つめていた彼に近づいてどうしたと問えば小さな声でごめんと言った。
その顔は何処が怯えた表情で、降り始めた雨を見た彼は小さく震え始めて。
｢おい！｣
体制を崩した彼を咄嗟に支えると、彼は眠りにつく様に目を静かに閉じた。
.
寮の俺の部屋で彼を寝かせて、ふと窓の外を見れば本格に雨が降り始めていた。
確か、彼の言うあの日と言うのもきっとこんな風に雨が降っていた時なんだろう、きっとあの時と状況が重なってしまったんだろう。
｢何で気づかなかったんだよ｣
体の傷は癒えても心の傷は癒えるのは難しい、とはまさにこの事だろう。
どうしてもっと早く気付いてやれなかったんだろうと、握り締めた拳に更に力を入れる。
｢知っていた筈なのに｣
そう、俺だけ彼の傷について知っていた筈なのに、何も出来なかった。
何が、彼の心の支えになれたら、だよ支えになんてなってねぇじゃん、と小さく自分を嘲笑うしかなかった。
▽
内容大幅に変更致しました。
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作者名：おえかきちょう | 作成日時：2020年3月5日 3時
