月で繋いで ページ35
ポケットの中で電伝虫が何度目かのコールを鳴らしているのを遠くに聞いて寝返りをうつ
あれから自室に戻ったAはそのままベットに倒れ込むと気を失うように眠りに落ちた
見ていた夢は、ずっと暗闇を歩き続ける夢
先には光が見えているのに、向かっているのは深淵なんじゃないかという恐怖に立ち止まった時、目が覚めた
辺りはもう真っ暗で、時計は日付が変わる時刻を示していた
「…もしそうだとしたら、私はどうなるの…」
頭の中がごちゃごちゃしていて。
ポツリとこぼしたこの気持ちに答えるものはいない
海軍で暮らして初めて感じた孤独感に、膝を抱え涙がこぼれた
「…あいたいよ…スモーカーさん…」
電伝虫がまた鳴っているのを知りながら
窓から見える月に彼への想いをはせた
でも…会いたくない
-----
ガチャリ
何度目かの繋がらないコールに受話器をおろす
ハァ…と大きく葉巻の煙を吐き出した
昼間はただ、少し気になってかけてみただけだった
いつもならすぐにか、時間が空いた時には折り返しが来るのだが今日は音沙汰無し
来ないなら来ないでいいのだが、でも何か引っかかって胸がざわつく
ソファにもたれ天を仰ぐと、ユラユラと昇る煙を眺めた
いつかの夜に見た消えてしまいそうなあいつを思い出す
存在を確かめる為に声を聞かないと気が済まなくて
もう一度受話器を取った
「…泣いてんじゃねェだろうな、A」
船の窓から見える月がやけに寂しそうに見えた
今すぐ会いにいって、その涙を止めてやりたい
そんな風に思うのはお前が初めてなんだよ
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 68人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：Ancop | 作成日時：2023年3月16日 15時
