日華(2) (ページ2)

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あなたの欠片-2…J ページ2

曇天から雨が降って雷まで響いていた。

"夕立ち"
きっとそんな感じだ。
だから一時的な物で時間が経ったら直にまた晴れるだろう。

家に着いてドアを開ける。

いつもの動作にいつものAの出迎えはセット
のはずだった。
目を落とす玄関にAの愛用していたスニーカーが無い。

出かけてる？
こんな雨の中？？

傘立ての中の傘の本数は変わってない。
もしかして雨が降る前に出かけたのかもしれない。
だとしたら…

デニムのポケットから携帯を取り出してAの番号にかけた。
'迎えに行くから何処にいる？'って。
玄関で靴を履いたまま立ち往生。

でも何度コールを聞いても出なくて

「もう一度おかけ直し下さい」

あまりにも鳴らし過ぎてそんな自動音声を聞いてしまった。

雨音で聞こえないのか
それとも電話に出れない様な場所にいるのか
仕事の用事だったら確実に後者だ。

そう思いながら一度諦めて靴を脱いだ。

すぐに折り返し来るだろう。
そしたら迎えに行って
デリバリーでもどう？って…

「………メモ？」

木製のローテーブルに白はよく映える。
真っ先に目に留まったそれを手にして自分がいかに悠長であったか思い知った。

「出て行った…？」

3回、4回読んでもAの手紙の内容が理解出来ない。

書いてある文字は確かに韓国語で
文章もハングルも間違いなんてないのに。

紙を握り締めたままさっき閉めたばかりのリビングのドアを乱暴に開けて
Aの部屋へ向かった。

ノックもせず力任せにドアを開けて。

「なんで…」

理解出来ない事が山程ある。
でもそんな中でただ一つ理解出来た事。

Aのスーツケースもボストンバッグも
Aも居なくなったという事。

灯りをつけたまま
Aのベッドに座って
手の中の手紙に目を落とす。

溜息さえも出ない。
これが心に穴が空く感覚。

いつかの様に外は雨がしきりに降っているのに
自分の呼吸の音だけが聞こえる。

Aの"おかえりなさい"が反芻する。

ああ、そうか。

「俺はAが好きなんだ…。」

やっと納得出来たのに
もうAはいないなんて。

俺の手首でAのいた痕跡だけがユラユラと揺れていた。