110 ページ11
季節は秋から冬へと移行き、生徒達は皆コートにマフラーという防護をして登校するようになった
そんな中、私といえば産休をとるべきかもう少し頑張るべきかを悩んでいた
『先生、失礼します』
相変わらずやってくるミュン君は私のお腹が大きくなる事にまるで自分の弟が出来るかのように目を輝かせて『元気に産まれてくるんだよ』と言った
ミュン君がお兄ちゃんだったらこの子もきっと喜ぶだろうな、なんて考えていると急な激痛に襲われた
陣痛…?
思わず蹲るとミュン君が慌てて駆け寄った
『せ、先生?お腹痛いの?』
背中を擦りながら心配してくれる
「ミュン君、誰か…先生呼んできて…」
そう言うとミュン君は少し顔を歪めて駆け出した
今は部活の途中だしもしかしたら先生方が居ないかもしれない、そう思いスマホで自分で救急車を呼ぶ
『先生っ、校長先生がいま来てくれます!』
「ありがとう」
激しい痛みに視界が霞んでゆき、頭がぐわんぐわん揺れ始めた
あ、そう思った時にはミュン君へ頭を預けていた
『先生!』
意識が…
目が覚めると病室だった
あのまま倒れてしまったのか
窓の外を見ようと目を動かすと黒いスーツが見えて旦那が駆けつけてくれたのだと嬉々として口を開いたけれど、その口は何も発することなく息を飲んだ
ミュン君…
私のベッドに顔を伏せて眠っているようだった
「どうして」
唖然とその綺麗な項を眺めているとピコンと携帯が鳴った
ハジュン学校で倒れたって聞いた。大丈夫?
ハジュン仕事が立て込んでて直ぐに行けなくてごめん。終わり次第駆けつけるから!
と旦那からの二つの連絡をみて、傷ついた
旦那は私やこの子より仕事を優先した
いや、本当は仕事なんて嘘なんだと思う
きっと女の所にいるのだ
たまに旦那の画面の端に見えていた名前が思い浮かんだ
ポトポトと布団にシミがついた
私は、愛した人と幸せに暮らす事が夢だった
けれど大人になるに連れて気付かされることはとても多くて
男の人には幾つもの愛が存在する事を知った
そういう生き物なんだから仕方がない
そう言い聞かせてもやっぱり我慢には限界がある
窓の外はもう暗くなっていて綺麗な月がみえた
眠っているミュン君を起こさないように涙を拭った
『ん…せんせい?』
『先生…よかった、目が覚めて…って、泣いてるの?』
ミュン君は冷たくなった手で私の手を握った
聞きたいことは沢山あったけれど涙が止まらなかった
383人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:nagi | 作成日時:2021年5月12日 15時