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「………」
「………」
「………」
「………」
目の前に、優雅に本を読む美男がいる。ちなみに、その美男を見つめ話しかける隙を伺っている美男が俺だ。
(…なあ直也、おい直也、聞いてくれ直也、あのな直也)
「……なんだい、充」
頭の中で、どの言葉を使うか考えていたのだが、そうこうしているうちに視線に耐えかねた直也が口火を切ってしまった。
「お、おう。あのな…」
肩透かしを食らったような感覚になり、格好がつかない状態で口をモゴモゴとさせてしまったが、これから彼に伝えたいことは本当に大事なことだから、ひとつ深呼吸してリセットする。
「…。俺、結婚することになったよ」
しばらくの沈黙のあと直也は、今何と言ったのか、と言わんばかりにバッと顔を上げた。思いの外考えが顔に出やすい男らしく、「???」とでも言いたげな表情だ。
「…結婚、だって?ずいぶん急じゃないか。だいたい、相手は…
ああ、君にぞっこんだったという従姉妹のお嬢さんか。それとも、お見合いを勧められていた医者の娘さんかい?
それにしても、あんなに自由を渇望していた君が親御さんの思惑通りにあっさり結婚するなんて、思わなかったよ」
そう。彼の言うとおり、この頃俺には親の都合で決められた縁談が絶えずやってきていた。落ち目とはいえ、由緒ある華族の端くれである。不破家との縁を望む成金も多いし、有力な家の令嬢との縁を繋いで不破家再興の野望を目論む両親も、金の亡者のようだった。そして、俺はそれが気色悪くて仕方なかった。
「そうさ、俺は親の言うとおりになんてしないね。自分の意思で、自分の愛する女性を妻にするんだ。
…他にはいないくらい、可愛くて、美しくて、賢い完璧な女性だ」
「…!もしかして」
俺が親の言いなりで政略結婚の駒になることを気にし、曇っていた直也の瞳に光が宿る。
俺が力強く頷くと、直也は本を置き、力が抜けたかのように大きなため息をついた。そして、おめでとう、と言って俺の身体を抱きしめた。
彼女と婚約することは、俺が覚悟していたよりもずっと簡単だった。
まず、彼女の身請け。娼館に売り飛ばすつもりだった店は、「彼女目当ての客も多いから簡単には売れない」と、白々しい理由を掲げて非常に渋る素振りをして大金を請求してきた。あまりの欲深さに辟易したが、俺が祖父に頭を下げて用意した金は、オーナーが腰を抜かすのには十分な額であった。
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更紗(プロフ) - おもちさん» 温かいコメント、そして作品を読んでくださりありがとうございます!すごく嬉しくて気づいたときちょっと泣きそうになりました(T_T) お好みに合うのであれば幸いです♪今後も緩くですが頑張りますので、引き続き楽しみにしていただけると嬉しいです^^ (2022年7月31日 2時) (レス) id: a475ea03b6 (このIDを非表示/違反報告)
おもち - SEECさんの作品で短編集なんてなかなか見ないものなので、読み始めたのですが、この甘ったるすぎない少し甘酸っぱい雰囲気がとても好きになりました!応援しております、これからも無理しすぎないように更新頑張ってください!! (2022年7月27日 21時) (レス) @page13 id: 19c9f4b836 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:更紗 | 作成日時:2021年7月28日 23時