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「そんなことまでだなんて…俺が、貴女に娼館に行ってほしくないというだけだと十分な理由にはならないのか?」

そう。俺は、彼女を娼婦になんてさせたくない。彼女が欲にまみれた男達の慰み者にされるなんて、絶対に絶対に嫌だ。そのために必要な金を出すためなら、父や祖父に土下座だってなんだってするつもりだった。

「…娼館行きから助けていただいたとしても…私には、もう行く先も未来もないのです。
これまでのお店での平穏な生活も終わってしまいましたし…実家に戻っても、家族は慰めてくれますが、既に私はご近所の笑い者です。出戻りどころではないんですから…

…身体で男の人のお相手をすることは少々辛いことですが、娼館には私の仕事も居場所もあります。思っているほど、悪いものでもないかもしれませんから…」

彼女は決して自由の身になることを望んではいないようだった。彼女は自由になって新しく心地良い居場所を探すことを諦めてしまっていて、変わりに、不快だとしても明確に与えられた居場所があることを望んでいる。

(……どうしたら)

俺は、誘いを受けてくれそうにない彼女に少し困ってしまった。大好きな彼女を娼館行きの道から外させることは、俺の自分勝手で偽善的な行動なのだろうか。

独りよがりな、独占欲。

(………あぁ、そうか、俺は最初から)


「…それじゃあわかった。

俺と、結婚しないか」


こうしたかったんだ。



「…え?今、なんと…け、けっこん…?」
彼女は面食らった表情で瞳をぱちくりしている。

「そうだよ、結婚しようと言ったんだ。

俺の嫁になってくれないか。Aさんのことが、好きなんだ。初めて会った時から、貴女の虜だった。


もう二度と会えない場所になんて行ってほしくない。
他の男になんて抱かれてほしくない。
不幸で美しくなんてなってほしくない。

俺が、貴女を独り占めしたいんだ。お店へ払う金だって、結納金の一部だと思えば順当だろう。

俺に、貴女の新しい居場所にならせてほしい」


「…っ!充、さま」

情熱的に、けれど素直に想いを伝えた。すると彼女は俺の名前を一言呟いて固まってしまった。俺も気恥ずかしくなって彼女から目を逸らした。

(…言ってしまった

もし断られたら…)
「…あははっ」

考えが恥に集中する前に、彼女の笑い声が漏れ出た。
俺の渾身の求婚は笑われてしまったのか。けれど、そうではなかった。

「私、お嫁さん」

そう呟いた彼女は、これまでで一番の笑顔だった。

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更紗(プロフ) - おもちさん» 温かいコメント、そして作品を読んでくださりありがとうございます!すごく嬉しくて気づいたときちょっと泣きそうになりました(T_T) お好みに合うのであれば幸いです♪今後も緩くですが頑張りますので、引き続き楽しみにしていただけると嬉しいです^^ (2022年7月31日 2時) (レス) id: a475ea03b6 (このIDを非表示/違反報告)
おもち - SEECさんの作品で短編集なんてなかなか見ないものなので、読み始めたのですが、この甘ったるすぎない少し甘酸っぱい雰囲気がとても好きになりました!応援しております、これからも無理しすぎないように更新頑張ってください!! (2022年7月27日 21時) (レス) @page13 id: 19c9f4b836 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:更紗 | 作成日時:2021年7月28日 23時

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