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百夜通い。それは、小野小町の伝説の一つである。
小野小町がある男の求愛に対して、諦めさせるための難題として「私のもとへ百夜通ったならあなたの意のままに」と告げたという設定だ。この伝説では、男は彼女の出題を真に受けて直向きに彼女のもとへ通うも、最後の雪の夜に息絶えてしまい思いを遂げることは出来なかった、とされる。
その伝説と同様、百夜連続で店に通ったなら俺の意のまま質問に答える。これがAさんが俺に出した課題であった。
恐らく本気で俺が百夜通いをするとは思っておらず、諦めさせるための条件として気の利いた古典を引用してきたのであろう。その賢さと機転に、結果、俺はさらに彼女の沼にはまることとなった。
「本日もご来店、ありがとう存じます。お会いできて嬉しいですわ」
7日後。変わらず冷静で隙がない。
「充様、いらっしゃいませ。本日、とっておきの越前のお酒が入っておりますのよ」
30日後。少し親密度が上がった。
80日後
「…本当に、毎日会いに来てくださるのですね」
80日後。彼女は美しい笑顔を見せてくれるが、少し呆れてすらいるような感情の起伏が見えた。
そう。来る日も来る日も俺はエーデルに入り浸り、彼女のもとに通ったのだ。自分でも不思議に思うくらい、彼女に入れ込んだ。可愛いとこそ思えど、女給にこんな感情を抱くのは初めてだったから。
彼女は最初こそあまり動じなかったものの、俺がAさんの出した条件を守ろうとしているのだとわかるような日数になるにつれて、嘘でしょ、とでも言いたげな表情がうっすら表に出てきた。彼女の接客は完璧だし、純粋に(客としてだが)俺に心を開いてきてくれているのだろうか。
「まさか忘れたわけじゃないだろう？百夜連続で、と言ったのはAさんだ。
俺は、Aさんのことがそれほどまでに知りたいんだよ」
彼女の目を見てそう言うと、彼女はほんのりと頬を染め、柔らかい笑みを向けてくれた。
「…左様でございますか。嬉しゅうございます。この身に余る光栄ですわ。
ええ、約束は、百日です。でもあと二十日…人生何が起こるかわかりませんので、期待しないでお待ちいたします。
さ、お酌を」
「…？」
彼女の言葉は、どういう意味だろうか。百日通いが叶う寸前で俺が通うのを辞めるかもしれないと思っているのか。それとも、何か事件が起こることを予知でもしているのか。まさか。
そんな疑問は、彼女の注いだ辛口の酒とともに口の中で溶けてなくなった。
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更紗(プロフ) - おもちさん» 温かいコメント、そして作品を読んでくださりありがとうございます！すごく嬉しくて気づいたときちょっと泣きそうになりました(T_T) お好みに合うのであれば幸いです♪今後も緩くですが頑張りますので、引き続き楽しみにしていただけると嬉しいです^^ (2022年7月31日 2時) (
レス) id: a475ea03b6 (このIDを非表示/違反報告)
おもち - SEECさんの作品で短編集なんてなかなか見ないものなので、読み始めたのですが、この甘ったるすぎない少し甘酸っぱい雰囲気がとても好きになりました！応援しております、これからも無理しすぎないように更新頑張ってください！！ (2022年7月27日 21時) (レス) @page13 id: 19c9f4b836 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：更紗 | 作成日時：2021年7月28日 23時
