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Aは、凪がブラックコーヒーが得意でないことをそれとなく見抜いていた。

コーヒーとにらめっこをするばかりだし、カップに口をつけてもぴくりと眉を寄せるばかりで、中で揺らめく黒い液体は一向に減っていない。

そこまでして凪がブラックで飲むことにこだわっている理由はわからなかったが、もし、砂糖を入れて飲むのは男の恥だ、とでも思って我慢しているのなら、そうは思わない人間もいるということを伝えたかった。

下心を正直に言うのであれば、少なくとも自分は、ブラックコーヒーに関して凪にとって都合と居心地の良い考えを持っている、ということをアピールしたかった。惚れた男性のプライドを傷付けず安らぎを与えられる、大人の女性として意識してほしかった。

そして、凪が自分の前だから無理をしているなど、知る由もなかった。


「Aちゃんが言うなら、砂糖を入れて飲んでみるか。


うん、これもなかなか悪くない!

……なあ、もしこれで俺が今後は普段から砂糖入れて飲むようになったら、Aちゃんはどう思う?」


きた、とAは内心で喜ぶ。

やはりAの読みは当たっていた。
自分の言葉次第では、凪をブラックコーヒーの呪いから解放出来るかもしれない。

わざとすっとぼけた言葉を返す。

「はい?良いのではないですか?」


「…俺、実はブラックコーヒー苦手でさ。
ずっと兄の友達にからかわれてるの。
それに、さっき言ってた君のお友達みたいに、ブラックコーヒーは良い男の必須条件だっていう声もよく聞くから、ブラック飲める男を演じたくてさ。


Aちゃんが、ブラックじゃなくても美味しく飲めるのが一番だって言ってくれて、とてもほっとしたんだ。

俺、砂糖入れて飲んでも、いいのかな」

凪はぽつりぽつりと言葉を選んだ。

そんな凪の独白を聞き届け、Aはにこりと微笑む。

「勿論です。いくつでも、ほしいだけ入れるのが良いと思いますの。

ブラックコーヒーは目標地点でも何でもないのですよ。ただの飲み方の一種です。いつか必ずそうしなければいけないようなものではありませんから、それにとらわれる必要もありません。

それに、コーヒーの飲み方くらいで、凪さんの魅力は変わりませんわ」


「……」


凪はしばらくの間、何も言わなかった。

(…もしかして私、何か良くないことを言ってしまったかしらん)

Aが沈黙に焦り始めたところで、凪は口を開いた。

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作者名:更紗 | 作成日時:2021年1月22日 15時

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