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迂闊だった、とAは後悔した。
今まで一緒に飲むのが大外ばかりだったから、完全に気を抜いていた。
「あ、の、瑪瑙さん、私どうしたら…」
「あら?彼はそのために待っててくれたんじゃないの?ね、そうよね」
瑪瑙はAに向かって優しく微笑むと、ピアノを背に座る男にウインクしてみせた。
すると彼はわかっていたかのように席を立ち、Aの傍に寄った。
「…ええ、貴女の言うとおりですよ、瑪瑙さん。
やれやれ。世話の焼ける女だな、君は」
「聖生、くん…」
そして阿鳥を抱き起こして支えた。
「君はそっちの肩を。ほら、せーの」
2人で両脇から支えたら、Aの身体への負担はぐっと軽くなった。
「では瑪瑙さん、失礼しますね」
「ええ。Aちゃんを頼むわよ」
「瑪瑙さん、御馳走様でした」
「またいらっしゃい」
瑪瑙に送り出され、阿鳥を挟んだ2人はバーを出た。
「君は大丈夫なのかい?結構飲んでいただろう」
「ああ、今日はソーダ割りだから昨日ほど飲んでないのよ」
大外は明らかに「そういうことじゃない」という顔をしたが、流した。
「ふうん、ならいいけど。君、本当に気を付けなよ。
僕以外の大概の男からしたら、君みたいなのは大好物だから。阿鳥さんだって例外じゃなかったろ?」
「え、そう?彼はそんな」
「鈍感だな君は。やっぱりバカだよ…
ああ、ここが阿鳥さんの部屋だね。阿鳥さん、ポケット失礼しますね…」
彼は鍵を探り当て、穴に差し込んで捻る。
すかさずAがドアを引き、通れるスペースを確保した。
「遥斗さーん、部屋につきましたよ」
「…ん……」
Aが呼び掛けても、彼の応答はない。
「仕方ない、ベッドまで運ぶか…」
「ここに放って帰るなんて失礼出来ないからね。さあ、もう一頑張りだ」
大外の掛け声でもう一度阿鳥の身体を持ち直し、やっとのことでベッドまで運んだ。
彼をベッドに横たえると、どっと疲れが押し寄せる。
「少し水を用意した方が良いかもしれないね。僕が用意するから、君はそのベッドサイドのテーブルを片付けるんだ」
「はーい」
大外と別行動を始めて、しばらくした頃。
「ん……?Aさん……?」
「あ、遥斗さん起きた?」
阿鳥がぼんやりと目を開けた。
「…Aさんと、一緒に寝るんだ」
「え?あっ」
寝起きとは思えない力で彼はAをベッドに引きずり込み、Aは成すがまま彼の腕に抱かれてしまった。
そして
「っ!だめよ、遥斗、さん」
覆い被さるよう、口付けされた。
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作者名:更紗 | 作成日時:2021年1月22日 15時