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佐原真依。

その名前に心当たりはない。そう、ないはず。けれど、その名前は私の心に居座り続けた。

そして、それと引き換えかのようにどんどん悠真くんのことが怖くなっていった。


幼馴染で彼のことは誰よりもよく知っているはずなのに、彼が誰であるのかじわじわとわからなくなっていく。得体の知れない感覚が気色悪く、今ではもう悠真くんの顔がぐにゃぐにゃに曲がって見えてしまうようになっていた。


(…今日は悠真くんは休みか)
秋分の日は午後から模擬試験だったが、悠真くんは来なかった。

私が悠真くんからマイと呼ばれなくなったあの日から、どちらからともなく私たちはわずかばかり距離をおいていた。取り立てて険悪なムードになったとか喧嘩をしたとかいう訳ではなく、相変わらず登下校も一緒で毎日普通に会話もしたが、何か少し気まずく、それまでよりも離れて過ごす時間が増えていた。

そのため悠真くんの不在に気をとられることもなく過ごしていたが、全科目を終えて改めて空席を見つめると、少し気になるものである。


(…今日はどうしたんだろ)

病気だろうか。遅れた夏風邪とか?でも昨日は元気だった。

(やっぱりいないと寂しいな)

「…あれ」

ぼんやりと眺めていた彼の座席に何か違和感を覚え、私は声を上げた。そして彼の机に駆け寄る。そして、違和感の正体に気がつく。

「………!」

私たちの学校では、椅子の背には名前の書かれたシールが貼ってある。
しかし、

「ない……」

そう。そこに彼の名前はなかった。

正確には、シール自体は残っているのだが、その中の文字だけが忽然と消えてしまっていた。


ここの名前は鉛筆手書きではなく印刷だから、悪戯でこう綺麗に消すことは出来ない。

「どうしてこんな…!?」

彼の名前のあったはずのところにそっと触れると、焼けるように熱かった。

そして同時に、ある風景がフラッシュバックした。

(…彼岸花だ。彼岸花の神社だ)

修学旅行で見た、赤い鳥居と赤い彼岸花が特徴的な小さな末社だった。

あの風景は、彼が酷く恐れていたもの。

彼に何か異変が起こっているのだろうか。

「…っ!」

異変が起こったのは私も同じだった。

どうしても、"彼"の名前が思い出せない。

必死に自分の記憶を辿り、彼に問いかけるシーンを呼び起こした。

「…そうだ、佐原悠真だ」

何とか思い出すことが出来たから、忘れないようメモした。


けれど、記憶の中の彼に顔はなかった。

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作者名:更紗 | 作成日時:2021年1月22日 15時

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