2 ページ32
悠真くんが周りの皆とどこか雰囲気が違うこと。それは、彼岸花の件で終わりではなかった。
どうやら、彼には霊感があるようだったのだ。
霊感の強い悠真くんと常に一緒にいたせいか、昔は霊感などなかった私にもその存在が薄く感じられるようになっていた。
小学校の修学旅行で秋に古都を訪れたとき、彼の反応は著しかった。
団体で移動している途中、彼は隣を歩く私にこそっと話しかけた。
「なあマイ、ここ…」
いつからか、彼は私をマイと呼ぶようになった。
別に変な話ではない。私の名前は舞原Aだから、考えるまでもなく舞原のマイだろう。小さい頃はAちゃんと読んでくれていたのに、と少し切なく思ったりもする。言わないけれど。
「え？ああ…また、いるね」
彼の指した方向に顔を向けると、この世のものとは思えない青白い人の影が数多くあった。ぼんやりとしているが、恐らく落武者。
悠真くんは私より霊感が強いからすぐに気がつくが、慣れている反面決して得意ではないようで、顔色が悪い。悠真くんほど敏感ではない私はそこまではっきりとはわからないため、彼を霊から遠ざけるように庇った。
「見ない方がいいよ。こっち通りな」
「あ、ああ…ありがとう」
修学旅行中、悠真くんはどこに行ってもその調子だった。
季節は秋。至るところに彼岸花が咲いていた。
私も悠真くんも、流石にもう彼岸花を見たことはあった。
けれど修学旅行最終日に班行動である場所に来たとき、事件が起こった。
そこは、建物の建物の間にひっそりと佇む小さな神社だった。
祠と鳥居があるだけの末社のようなものだったが、赤い鳥居の脇にはちょうど見頃を迎えた彼岸花の群生があり、鮮やかで美しかった。
ガイドブックに載っていた訳でもなければ私たちの目的地でもなく、偶然見つけたといった次第だった。
「わ！綺麗なところ！すごいね。こんなところあったんだぁ、何だか得した気分！
そういえば悠真くん、小さい時彼岸花の絵ばっかり描いてたよね…
…！？どうしたの」
綺麗な情景に感嘆することもなく相槌も打たない悠真くんを不思議に思って彼の方を見ると、彼の顔は真っ青だった。
班の他の子に心配をかけまいと、彼は平気なふりをしていたが、その身体は、わずかに震えていた。
「…彼岸花苦手？」
彼の手を引いて皆から少し離れ、改めて話しかける。
「……」
「…大丈夫？」
彼が俯いたままなので顔を覗き込んだところ、私が目にしたのは異様な表情だった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 22人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：更紗 | 作成日時：2021年1月22日 15時
