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「一体どういう風の吹き回しだ、凪?」
言葉口は軽いが、哲や直也同様、充までもが心配そうな態度である。
それもそのはず、普段の凪は皆に合わせてコーヒーを飲むというだけで、砂糖をたっぷり入れたからといって、特段コーヒーは好きではない。
「まあいいさ。凪にだって心境の変化くらいあるよね。充も俺もおかわりをと思っていたところだから、凪の分も一緒に頼もうか。
哲はどうする?」
「あ、じゃあ僕もお願いします。
凪、お腹痛いとかじゃなくてよかったよ。」
「ああ、心配かけてごめんな!
やっぱ男はコーヒーに限るよなあ、あっはっは!」
「…本当の本当に、具合が悪い訳じゃないんだね?」
少し声を張り上げて例の少女に自分の存在を主張するかのようなことをしてみたが、それにより特段少女の目線が凪に移ることはなく、ただ単に哲から怪しまれるだけという結果に終わった。
ほどなくして新しいコーヒーが届けられ、ふわりと芳醇な香りが再びテーブルに広がった。
テーブルには凪の異変からか謎の緊張感が漂い、全員が無言のままカップの持ち手に手を掛けた。
「………………」
特段いつもと変わりなく、ブラックのままコーヒーを口にする充と直也。
「………………」
ちらりと凪の顔色を伺いながら、角砂糖を1つ投げ入れたコーヒーを口にする哲。
「………………」
そっと角砂糖の壺を押し戻し、意を決してブラックコーヒーを口にする凪。
「……っ!苦っ!!」
我慢しようと思っていたものの、あまりの苦さに凪は思わず呟いてしまった。そして充がそれを聞き逃すはずがなかった。
「なーにやってんだ凪、お前ブラックなんて飲めないだろうが。ほれ、砂糖」
「いや…!これは、これだけは、ブラックで飲まなきゃいけないんだ!止めないでくれ!
ぐ、苦いっ…うう」
充は壺からトングで1つ角砂糖をつまみ上げたが、凪はそれに挑発されることもなく、甘んじることもなく、表情を変えないままもう一口、もう一口とコーヒーを口に含んだ。
「凪、どうしちゃったんだろうね、哲?」
「さあ…僕にも何とも……
コーヒーって、反逆者か何かでしたっけ」
「そんなことはないはずだけど…凪の表情。
あれはまさしく戦いの顔だね」
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作者名:更紗 | 作成日時:2021年1月22日 15時