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地獄に落とされたあの瞬間から、僕は生死の狭間世界での体験を明細に思い出していった。
遥斗さんとの思い出は勿論、黄昏ホテルで出会った"あちら側の人たち"のことも。
まず、支配人。
頭が燃えている巨漢。涙もろく、すぐサボる。僕がバーにいるときも、何度も顔を出していた。驚くほど単純だけど、底抜けに優しい。人間より、いや、僕なんかよりよっぽど人間的な人だった。
次に、切子さん。
彼は見た目こそここの猿どもと瓜二つだが、知識も豊富で考え方に深みがあり、話していて楽しいと思えるような男だった。遥斗さんを抜きにすれば、ホテルの中で僕が最も馬が合った相手だったと記憶している。その思い出がある分、ここの奴らが一層恨めしい。
最後に、瑪瑙さん。
彼女は、ホテル内で僕が入り浸っていたバーのママだ。聞き上手で、頭から大きな角が生えていることを考慮しても、大変な美女だった。しかもグラマーで、見た目だけで考えるならかなり好みの部類だった。彼女がもし人間だったなら?その際僕がどう動くかなんて、愚問だろう。
僕が彼女の正体を知ることは最後の最後までなかったが、元は地獄の生き物だったのだろうと確信している。
何故なら、ここには彼女に似た女が沢山いるから。みんな一様に頭から角を生やして、美しい顔で、乳がデカい。
生前の行いのせいか、僕はその鬼女たちに襲われることが非常に多い。
見た目の美しさに騙されたらもう一巻の終わりだ。彼女たちは長期戦を仕掛けてくるため、一瞬の快楽の後、悶絶するような苦痛がしばらく続く。一息に死なせてはくれない。その点では、眼鏡猿よりよっぽどタチが悪い。
と、その時不意に甘い香りが漂った。
「…ふ、考え事?余裕ね」
「っ!!!!!」
まずい、背後をとられていた。
首筋をぺろりと舐められた後、耳が咥えられた。それだけで全身に薬が回ったような感覚になり、こうなると僕はもう自力で身動きがとれない。甘噛みされて思わず声が漏れる。
「んっ…あっ…やめ…」
「もう、物欲しそうな声上げちゃって…心配しなくても、息絶えるまでいたぶってあげるわよ…
…え、貴方……」
「…な、にがいいたい…?」
彼女は突如眉を寄せて耳から口を離し、僕の顔を見た。僕はもう力なく彼女を睨み上げる以外に出来ることがない。
しかし彼女の言葉は意外なものだった。
「貴方、死んでないでしょう」
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作者名:更紗 | 作成日時:2021年1月22日 15時