_ ページ11
.
様々な店舗で幾度も試着を繰り返して、無事購入した青みがかった水色のドレスを着て友人の結婚式へと向かう。
新婦側の受付を任されていたから早めに式場に着くようにしたけど、既に新郎側の受付の方が先に到着していて思わず小走りになる。そして滑り込んだ勢いのまま頭を下げた。
「すみません遅くなりました！」
「いえいえ、自分もさっき着いたばかりなんで」
「「…えっ？」」
素直に謝罪案件だけど友人の結婚式どころではない。
できれば、これこそ夢であってほしかった。
背が高くない私にとってはヒールを履いても見上げてしまうくらいの長身で柔らかな髪質に暗めの茶髪、アーモンドのような形をした綺麗な横長の目。
一気にあの頃の記憶たちが頭の中を駆け巡る。
「久しぶりだねAちゃん」
「…本当に久しぶり」
「林田の奥さんと知り合いだったんだ」
「そう大学からの友達で。…阿部くんは？」
「…会社の同期なんだ。あいつ」
一瞬だけ寂しそうな表情をしたかと思えば、「でもまさかこんなところで会うとはね(笑)」って顔をくしゃっとさせて笑う姿があの頃となにひとつ変わっていなくて胸がギュッと苦しくなる。
寂しそうにみえただけかもしれないけど、
でもなんとなくそう見えたのは私が名前を呼ばれても( 亮平 )と返さなかったからかもしれない。
阿部くん。
当時のバイト先であるコンビニで出会った人。
学があって真面目で、かと思えばお茶目なところもある人。
バイト仲間という関係から告白されて付き合うということも手を繋いだり、恋人としてそれ以上の行為も。
私の恋愛における全てのはじめては全部彼だった。
事前に受付でのご祝儀の受け取り方とか調べて覚えてきたはずなのに、いざ実践するとなると緊張であたふたする私の隣でコソッと「まずお出迎えのあいさつ。それから両手で受け取って」って教えてくれた。
黒歴史ばかりのクソみたいな恋愛をしてきた中で、
唯一出会えて良かったと思える人。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 827人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：無色透明 | 作成日時：2023年11月23日 22時
