第十八話 ページ6
眩む思いがして、一瞬限りの夜が訪れる。
そうやって開けた目が捉えるのも、また闇であった。
殆ど一面と言っていいほどの黒。
上下左右の感覚などとうになくなっている。
そんな空間だから、白銀の少女も
純白の3対の翼も浮き彫りにされてまた目が眩む。
真祖「やあ、ここで会うのは三回目かな？｣
二度あることは三度あるのだ、
防げないだろうことは分かっていた。
グレンが私の警告を守らなかった時点で、
この状況は不可避であった。
真祖「ふふ、彼らを信じちゃいけない」
当然のように心を読む真祖と、私は目を合わせない。
庇うように、鬼を背に下を向いている。
真祖「に、してもだ。真っ黒な世界になったものだね、君の心は」
目線を少しだけ上げて、そんな世界に立ち尽くす存在を見やる。
天使は、ラッパを片手に
ただ、まだ、上ばかりを見ていた。
真祖「彼は何を見ているの？」
A『……上を』
受け応えた私を見て、真祖が笑う。
泣き止んだ子供を見るような目だった。
真祖「私をどうやって追い出そうか、考えてる」
当たり前だ。
真祖「せっかく入ったんだから、もっと歓迎してよ」
絶対に嫌だ。
真祖「シンプルだね」
真祖が首を掴む。
そのまま引き上げられた私に、彼と目を合わせない選択肢は残されていない。
いつもより重たげな色をした瞳。
彼女は足が宙に遊んでも、無表情を崩さない。
真祖「君を知らないと言ったが、あれも嘘だ」
嘘ばっかりだ。
内心の醜さを吐き出したこの世界であるはずなのに、
至る所嘘が薄氷を張っている。
真祖「君自体詳しく知っていたわけではないけど、
君が変な力を持っていたのは知ってた。崩壊の力と俗に呼ばれていたもの」
弱々しくAが瞬いた。
真祖「あれ何か得体の知れないやつかと思ってたけど、なるほど天使の力だったわけだね」
飽きた、とでも言いたげに真祖が手を離した。
詰めていた息を吐く。
二度いつもより深く呼吸をしただけで、
咳払いさえなかった。
真祖「その黙りでつまらない顔は、諦めかい？」
真祖「抵抗しない。どうして？今度は何を企んでいる」
Aが顔を上げる。
焼け焦げて濁った赤い瞳が、ようやく真祖を見る。
酷く酷く哀しげに、笑った。
真祖の嫌いな笑みのようでいて、あまりに弱いそれ。
分からない、と真祖は思わず不機嫌になる。
余裕の嘲笑か、諦観の自嘲か。
彼女が緩く手を広げた。
小さく肩を竦めて、首を傾ける。
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作者名：アルカーヌ | 作成日時：2021年9月24日 21時
