第十九話 ページ17
何度も言うように、
もう戻れなくなっていた。
1度知ってしまった自分の正体についての鍵を、
彼女はもう捨てる術を持たなかったのだ。
既知の苦しみを、
彼女は一生抱き続けなくてはならない。
ついこの頃まで、忘れたフリをしていたのだ。
考えないよう、思い出さないよう
短絡的に生きようとしていたのだ。
しかし、持続とは、維持とは、
あまりに難解で退屈なものだった。
大問題が一つある。
私に、知識欲があることだ。
機先を制すると、わざわざ真祖に会いに行った理由を既にいくつか挙げたと思うがその中に、
私が何者か知るためという動機がある。
私が天使であることは間違いない。
それが先天的だったのか後天的だったのか、
それは一旦置いておくとしても。
そしてこの世界における天使、その創造に深く関わっている人物が、真祖だった。
真祖は私を創ったのかどうか。
本当に私は真祖に創られていないのか。
ならば？
また展開されるのは自分についての思考。
気にしないようにするほど、
離れれば離れるほど、
心に引っかかって外れない。
気になる。
グレン「おい」
鋭く声がする。
全く関心が湧かなかった。
私の欲しい答えを知らぬ声など必要ない。
興味もない。
私はただ、知りたいのだ。
知りたくて仕方がないのだ。
グレン「どうして欲望の壁を下げた！！」
高過ぎる敷居はいつの間にか下がりきって、
もう跨げば乗り越えられるだろう高さである。
それでも真祖は動かなかった。
異変にこちらを見る鬼。
真祖はただ恨めしそうに低い段差のような壁を睨めつける。それだけ。
答えの知らぬ声は要らない。
それが例え真祖の声であったとしても。
A『あなたは何も知らない』
真祖「……本当にそうかな」
A『私の問に答えうる知を持ち合わせてない』
真祖「…………」
無言が、
何より、動けない真祖自身がそれを肯定している。
真祖「もうほら、やっぱり君は気持ち悪い」
真祖が、身体の奥から嫌悪を感じる。
畏怖か、脅威か、「危険視しろ」と本能が言う。
真祖「何でそんな不確定で、不透明で、それでいて絶対に強いんだ」
彼女の中身はぐちゃぐちゃだった。
かつての人間の心を微かに保ち、
色濃く知識欲を持ち合わせ
吸血鬼の諦観の双眸を携えて、
鬼の貪欲さを帯びた
天使の破壊的な力と、
異例の天使である故の無知とを
全ては抱え込んで、崩れそうな彼女はそれでも無知を追い求めている。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 16人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：アルカーヌ | 作成日時：2021年9月24日 21時
