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第十九話 ページ16

問題はAにあった。

ただ、Aが極端に強かった、
そういう訳でもない。

彼女の強さは精神的なものではない。

真祖が鬼の攻撃の僅かな隙を縫って、Aに鋭い爪を伸ばす。

大きく後ろへ、高く上に跳んだ彼女を、

虚空で回る鎌が追撃する。

しかしAは、羽もないのに空中で器用に身を翻してしまう。

支えもないと言うのに、安定した軸で緩やかに身体を捻るのだ。

蝶のようなしなやかさである。

彼女の強さはこれだ。

物理的な、戦闘における圧倒的な強さ。

では何故、鬼や真祖はAを倒せないにしても
乗っ取れないのか。

真相の鍵は恐らく、彼女の言った「無知」にある。

神がAに授けたというその無知。

勿論そこに、単純に乗っ取れないように創った、という事実があるのかもしれないが、

そんな面白みのないことは考えないというのなら、

無知であることそのものが原因であるのだ。

彼女が受け取った無知とは、
彼女自身に対する無知だ。

結局、Aとは何者なのか。

自分の本質について、
それはA本人ですら分からない。

つまり神が与えたのは自分自身の正体に対する無知という事になる。

Aも、誰も、一体この白銀の髪と赤い瞳を持つ小さな少女が何者なのか、その真実を知らない。

だから、Aさえ分からない、Aの核となる場所が見つからないのだ。

先程鬼を連れていった、今のところAの心であると思われるあの場所さえ、

本当に彼女の心であるのかという証明はできない。

故に、乗っ取れない。

乗っ取るための彼女の心が掴めないからだ。

Aの口ぶりを見るに、これは決して悪いことではないらしい。

当然乗っ取られない利点はあるにせよ、

それ抜きでも彼女はこの無知を贈り物のように見なしているきらいがある。

無知が、唯一の救いになることを彼女は知っている。

知って、理解して、囚われて、身が滅ぶ。

その危険性が全くない。

苦悩することがない。


無知は既知に裏返れど、既知は無知に裏返らない。

1度知ってしまえばもう元には戻れない。

Aは無知を知った。

自分の中にぽっかりと掬い取られた無知があって、
自分自身を真に知らないことを知った。

そして、知りたいと思ってしまった。

彼女は自身の隠された最深層へ手を伸ばして、
無知を既知にしようと幾重も思考を巡らせた。

そうやって無知の目の前に立ったとき、
漸く気づいたのだ。

ああ、取り返しのつかないことをした、と。

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設定タグ:アルカーヌ , 終わりのセラフ , クルル・ツェペシ   
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作者名:アルカーヌ | 作成日時:2021年9月24日 21時

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