終わりの熾天使〜真っ赤な崩壊、瞳を濡らす天使は高みの見物〜

第十二話 ページ43

人間と吸血鬼は、自然と部屋を別れ、それぞれの食事を始める。

あれだけ吸血鬼を嫌っていたミカエラも、こっち側だ。

ただ、血を飲んでいるのはクローリーだけ。

私は、きっとまだ喉が渇いているべきなんだろうけど、

残念ながらもう充分。充分過ぎる。

ミカエラは、まだ血を飲むのに抵抗があるのだろうか。

決して血の入ったワインボトルに手を伸ばさないが、クローリーの持つグラスを睨んでいる。

クローリー「そんなににらまなくても、飲みたいならあるよ」

ミカエラ「誰の血だ」

彼の表情は変わらない。欲望を隠している。

まだ自分が吸血鬼だと、認めたくないみたいに。

クローリー「さあ。でもたぶん、味的には子供の血だ。

　 フェリド君は僕と違って若い子の血が好きだから。

　 それを君はよく知ってるだろ？」

しかし隠しきれなかったようだ。

込み上げてきた別の感情が、溢れてしまった。

フェリドに対しての嫌悪感。自己嫌悪。後悔が。

それに釣られたように、血への欲求が出てきてしまう。

ミカエラがこちらに視線を移した。

控えめに。後ろめたそうに。

そういえば、ミカエラに血をあげたことがあった。

誰か理解して。助けて。隣にいて。触れていて。

まるで幼子のような、弱い、弱い弱い、そんな感情の波に呑まれて。

自ら作った偽物の感情。それに飲み込まれるのは想定通り。

飲み込ませた。偽りを重ねて、新しい感覚を求めて。

しかし、疲れてしまった。

崩壊の力は、私のものだ。

何百年も何千年も、この力に苦しめられてきた。

そろそろ私も成長するべきだ。この力を、いつまでも持て余すなんて情けない。

未だ微かにこぼれ落ちる崩壊に気づいている。

それでも強気に瞳を揺らした。

だからもう血はあげない、と。

知らんぷりするように、ミカエラから目線を外す。

ふい、と少し横を向いた。

白銀の髪が翳されて、視界からミカエラを消してくれる。

それでも彼が、彼らが何をしているか分かってしまうけれど。

クローリー「嫌悪感。不思議だよなぁ。牛を焼くのは平気なのに…」

クローリーがミカエラの気持ちを見透かして続ける。

クローリー「なぜ同胞の血を飲むとなると、こうも嫌悪と背徳感があるのか」

よく覚えているなぁ。

私にも、きっとそんな時期があったのだろう。

私には、そんな思いはなかったのだろうか。

昔過ぎる。長く、生きすぎている。

密度の低い、人生を。色のない時間を。

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