秘密。 ページ2
誰も知らない、私たちだけの物語。
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今日も、二年一組の教室は騒がしい。
美玲は読んでいた文庫本から目を上げ、教室をぐるりと見回す。
昼休みは終わりが近かった。そのためかクラスメイトのほとんどがこの場に集まっていて、くだらない話に花を咲かせているらしかった。もっとも、美玲のような生徒だって珍しくはなかったが。
美玲の通う公立高校は、県内でも五本の指には入る進学校だ。
シンプルでありながらお洒落な色味のブレザーが女子に人気で、全校生徒の半数以上が女子という今どき少々めずらしい比率の共学でもある。
最寄りのバス停からは徒歩五分ちょっと、住宅街と商店街の中間のような場所に立地するこの高校を美玲が選んだ理由は、単純に徒歩通学が無理なくできる範囲にあったからだった。
中学の教師からはトップ校の受験を勧められたものだが、美玲はそういった学校に入りたいという強い思いもなければ勉強に特別打ち込みたいという欲もなかった。学力的にも総合的にも、この学校が都合が良かった、ただそれだけの話である。
ちらりと目をやった掛け時計が指す時刻は授業開始の五分前だった。
美玲は文庫本を閉じ、丁寧に机の中へと仕舞う。薄い文庫本の表紙に書かれている作者名は地元の文豪のもので、美玲が中学一年生のときの国語教師がおすすめだと言っていたものでもあった。
ブックカバー、買おうかな。そんなどうでもいいことに思考を巡らせつつ、美玲は授業の準備を始める。確か次の教科は日本史だったか。
トン、と軽い音を机が鳴らす。教科書やノートの端をこうやって揃えるのは、小学校の頃からの癖だった。
持て余した時間を、美玲は贅沢に身支度に充てることにした。
といっても席をわざわざ立って洗面台まで行くなんてことはしない。理由は単純、面倒くさいからだ。
適当に毛先を切り揃えた前髪を指先で弄ぶ。窓際の席に差し込む、カーテンで和らげられた日差しが黒髪に透ける。
ふと、その向こうに、ある女子生徒の姿が映った。
ふたつに結い上げられた髪は美玲のそれよりも長く、焦がしたキャラメルのような甘い色を生まれつき与えられていた。
どこまでも計算され尽くした完璧な身なりは、決して厳しくはないが緩くもない校則の範囲内で磨き込まれている。短すぎないスカート丈も、制服の色によく合うカーディガンも、耳の後ろで結われたふた房の茶髪も、どれもこれも。
愛されることが当然だとでも言うような自信に溢れた笑顔で、彼女は友人と教卓を囲んでいた。
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