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61. ページ11

大貴.



大「……A?いる?」




薄暗い廊下の向こうにある、女子トイレ。とりあえずここに来るまでの廊下は確認したし……いると思うけど、一応声はかけておく。突然ノックしたりしたんじゃびっくりするだろうし。

結構大きな声で聞いたけど、返事はなくて。多少の罪悪感と恥ずかしさを感じながらも、「これは緊急事態だ」と自分に言い聞かせて、女子トイレのドアを押した。




大「ごめん、入るけど平気?……A?」




そこにいたのは、荒い呼吸を整えることもできずに、ただ洗面台に両手をついて俯くAだった。

苦しそうな呻き声をあげながら、ただひたすら息を吸い続ける。今のAの状況は良くないものだと、俺でも一目見ただけで分かった。そっと顔を上げたAは、目に涙をいっぱい溜めて俺を見やる。




『だい、き……?なんで、』

大「何でって、それはお前が心配で……」

『ごめ……っはぁ、……ひ、……くるし、』

大「どうした?苦しい?大丈夫?」




見たところ過呼吸を起こしているA。慌てて駆け寄って背中をさすると、いつも笑っているはずの顔は真っ青で、頬は涙でぐちゃぐちゃに濡れていた。

こういうときって、どうしたらいいんだっけ……精神的なものが原因だから、落ち着かせなきゃいけないんだよな。俺だってパニック状態なのに、こういうときほど冷静に動けるから驚いた。




大「……大丈夫だって、俺がいるじゃん。ゆっくり息吸って、吐いてみよう?」

『う、ん……っごほ、……ううっ、』

大「Aは何も悪くないんだからさ、な?泣かなくて良いんだよ」

『だいき……』




Aは、あまりにも酷く落ち込んでいると思った。俺の前ではいっつも元気で、明るく笑っているのに。それがこんなに苦しそうな顔をして、泣きながら俺の名前を呼ぶんだから。

やりきれなくなってそのまま抱き締めると、Aは俺の背中にしがみつくように腕を回した。


……あれ、こいつ、こんなにちっちゃかったっけ。

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作者名:流星 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2021年8月5日 1時

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