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貴方.
『せーちゃん』
「うん、」
『わたし、せーちゃんがデビューしたら、もっと遠くなっちゃうって思っちゃったの』
「……うん」
『嬉しいのに寂しくて、こんな自分のまま会いたくなかったから、今日はすぐ部屋にこもっちゃって、』
「ごめんね」と呟いた声は、震えてしまったせいか、いつもより弱々しく感じられた。
『ワガママでごめんね』
「そんなん思うわけないやん」
『うそ』
「嘘ちゃうわ。まず遠くなんかならへんけど、」
『……それも、うそや』
「ちゃう、俺が離れてやらん」
私の目尻を、それはそれは優しく親指で拭ってみせる。
「泣きすぎ」なんて笑うせーちゃんに、堪えていた感情が爆発してしまった。こんなにも子供っぽい私に、せーちゃんはいつか愛想を尽かしてしまうんじゃないかって、ずっと不安でたまらなかった。
『せーちゃん』
「ん？」
『飽きるまででいいから、これからも一緒におって、』
「飽きひんけど、分かった」
『私のこと嫌になったら、すぐ言うてな』
「そのイメージがつかへんけど」
『東京で可愛い女の子に出会ったら、バレへんように浮気してほしいかな』
「俺そんな器用ちゃうわ」
アホみたいかもしれんけど、知らなければ傷付くこともないから。
だから嫌いになったらすぐに言ってほしい。その分早く立ち直れるかもしらんし、それでせーちゃんが幸せになれるんやったら、私は全然大丈夫やから。たぶん。
三日三晩くらいは泣くかも、でも、大丈夫。そうなるようにするよ。だから、
『私のこと好きでいてくれるうちは、……ずっと隣におって、ね』
「……Aさ、何でそんなネガティブなん」
『そんなん、』
こんな自分じゃせーちゃんに釣り合わんからで。
不安に感じる理由をひとつずつ教えようとしたけれど、そんな私の言葉ごと、まるっと彼に食べられてしまう。もちろんそんなのは比喩表現で、ちゅっと音を立てて触れた唇が、私の不安や心配事を攫っていった。
いつの間にやらソファに押し倒されていて、逃げ場なんてどこにもなくて。ただ私が何が弱音を吐こうとすれば、彼はその何倍も大きな愛情をぶつけてくるだけ。
「……こんなに好きって言うてんのに、まだ不安か」
『…………うん』
「欲しがりやなあ、ほんまに」
『だって、』
大好きなんやもん。
分かってないのはせーちゃんの方やろ、なんて。そんな言葉も、全て彼に持って行かれてしまった。
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作者名：流星
| 作者ホームページ：https://twitter.com/sst__05
作成日時：2023年5月16日 0時
