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貴方.
「A」
『あ、……せーちゃん、おかえり！』
心なしかいつもより嬉しそうなノックが聞こえて、私もすぐに立ち上がった。
ドアが開いて、彼の表情を確認する前に、ぎゅっと強く抱き締められて。突然のことに驚きながらも、その背中にそっと腕を回した。私も同じくらいかそれ以上に強く、せーちゃんのことを抱き締めてみる。
『……びっくりしたあ』
「なんか、顔見れてほっとしたわ」
『ほんまに？』
「ん、ずっと気張っとったんかな」
ほんの少し頑張って手を伸ばして、彼のふわふわの髪の毛を撫でてみた。
すると、より一層強い力で抱き締められる。男の人にしては華奢な方なのに、その力はどこから湧いてくるんやろう……なんて、やけに的外れなことを考えてしまった。
嬉しいけど、ちょっぴり寂しいのは、彼がまた一段と遠くに行ってしまうような気がするからだろうか。
『おめでとう、せーちゃん』
「……ん」
『ずっと見てたよ』
「うん、」
『皆泣いてて、潰されるんちゃうかってくらいぎゅうぎゅうになっててね、……ほんまに幸せで』
あんなにたくさんの人の心を動かせるなんて、私の大切な人はほんまに凄い人なんやと思う。
またあの感動を思い出して、胸の奥がじんと熱くなった。必死に紡いだ言葉は震えていたけれど、それさえも私を感情的にさせるものやから、ちょっと困る。
「やっとAの隣に並べるわ」
『……へ？』
「俺がちゃんと夢叶えな、Aのこと幸せになんて出来へんやろ？」
『や、そんなこと、』
「あるねん。男として」
私の背中に回していた腕をゆっくりと解いて、今度は両頬に手を添えられる。じっと見つめられて、我慢していたはずの涙が頬を伝う。
「なんで泣いてんの、A」
『だ、だって……そんなこと考えてるなんて、普通思わんやん……』
「少なくとも俺はずっと考えてたで。はよデビューして、Aに相応しい男にならなあかんって」
『そんなん言うたら私やって、』
デビューして、全国に、そして世界に名を馳せていくであろうせーちゃんに、私じゃきっと釣り合わなくなる。そんなことを考えて不安になっていたのに、彼は全くもって反対のことを考えていたらしい。
私に相応しいとか、そんなん、初めから考えんでもいいことやのに。
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作者名：流星
| 作者ホームページ：https://twitter.com/sst__05
作成日時：2023年5月16日 0時
