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貴方.
「まあ、でも」
『ん？』
「初めてちゃうんは、ちょっとムカつくけど」
『……意外やなあ、そういうの気にするんや』
何回か唇が触れたかと思えば、何とも複雑そうな顔をしてそう呟いたせーちゃん。
初めてというのは、所謂キスのことで。正直そういうことは少しも気にしてなさそうな彼のことやから、「ムカつく」なんて言葉が出てきたこと自体にびっくりやけど。
『せーちゃんも初めてちゃうのに』
「まあ、」
『……しかも、雪歌ちゃんともいっぱいしてるくせに』
「まだそれ言うんや」
ふっと笑ったせーちゃんは、「いっぱいしたるやん」なんて余裕そうな表情でずるい。そんなこと言われたら、私はもう黙って目を閉じるしかなくなるし。
角度を変えて続くそれに、徐々に酸素を奪われていく感覚。何もかもが未知数なわけではないけれど、こんなにも胸の奥がきゅっと苦しくなるのは、確実に初めてやったから。
薄らと目を開ければ、私を見つめていたであろう彼と目が合う。ふわりと優しく微笑んで、乱れていた髪を整えた。
『目閉じてよ、』
「Aの顔見えへんと困る」
『……見やんで、必死な顔してるもん』
「それがかわええんやろ」
『もう……』
ぎゅっと抱き締められて、せーちゃんの腕の中に収まった。背丈は低いはずなのに、私より少しだけ大きいくらいなのに、こうして抱き締められると包み込まれる感じがして、どうしようもなく落ち着いてしまう。
とくとく鳴っているのはせーちゃんの心臓の音で、私より何倍も穏やかなもんやから、それはそれでムカつくかも。
『初めてちゃうけど、初めてやで』
「……よく分からんねんけど、難しい話してる？」
『やから、……こんな風に自分が分からんくなるのは、初めてやから』
酸素が薄くなって、視界がチカチカして。高揚するというか、突き抜けた緊張感を味わっているというか。私の足りない語彙力じゃ表現が難しいけど、今までの経験とは確実に何かが違っているから。
『ちゅーしてて、こんなにどきどきしたことないもん』
「……それはそれでどうなん」
『まあ、せーちゃんは違うかもやけどな！？』
「何で急にキレんねん」
乾いた笑みをこぼしたせーちゃんは、少し離れると「俺も初めてやけど」と私を見つめる。
「こんなにかわいい彼女」
『……アイドルやあ』
「なんっやねんそれ！」
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作者名：流星
| 作者ホームページ：https://twitter.com/sst__05
作成日時：2023年5月16日 0時
