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貴方.
『……なに着ても似合うやんか』
末「おー、そんな褒めても何も出えへんで」
『本音やし！』
さっきからずっとこんな感じやけど、せーちゃんが何でも着こなせるのはほんまの話で。
本人はもっと身長があれば……とか、そういうことをたまに口にするけど、私はそうは思わない。そりゃあ芸能人としては、あればあるほど困らないものなんやろうけど。
でも、私より普通におっきいし。隣に立ってて何の違和感もない。ファンの子にはちっちゃいとか言われちゃうんかな。でもファンやったらどんなせーちゃんでも好きよな？
末「これとこれやったらどっち？」
『私の意見いる？』
末「いる」
『……じゃあ、こっち』
選択肢を与えられても、私からしたら本当のオシャレなんて分からないのに。
何となく直感でせーちゃんに似合いそうなパーカーを指差せば、彼はにっこりと嬉しそうに笑って「じゃあこれ」と店員さんにそれを預ける。
せーちゃんの行きつけのお洋服屋さんやから、お店のことは知り尽くしているらしい。もちろん店員さんのことも。楽しそうに談笑する姿を見て、心安らげる場所があることにほっとしたような、そうでないような、複雑な心境。
「なに、今日はデート？」
『へ、』
末「あー、うん。そうっすね、服選んでもらおうと思って」
特に親しげな人からの冷やかしとも取れるそれを、せーちゃんは否定も肯定もせずに笑った。
大人からしたら、それが普通なのかもしれへん。下手に否定して変な空気になるのとか、そういうのよりはマシみたいな……分からんけど、私にはまだ知らんことが多すぎるから。
でも、それは普通の大人に限られた話であって、せーちゃんはアイドルやから。恋愛に結びつきそうな話は御法度や、絶対に。
店員さんが離れたところで、思わず彼を呼び止める。
末「んー？どうしたん」
『……デートちゃう』
末「え？」
『デートって勘違いされたら、せーちゃん困るやろ』
末「……あー、なに、そんなこと？」
『そんなことなわけないやんか！』
やっぱり嬉しそうに笑ったせーちゃんは、「俺はデートやと思ってんのにな？」なんて私の頭を撫でて、他の服を見に行ってしまった。
分かってる。今は前より簡単にデートって単語を使うし、ただ単純に出かけること＝デートみたいな節はある。
でも、やっぱり分からない。胸の奥がもやもやと苦しくなったことだけを覚えている。
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作者名：流星
| 作者ホームページ：https://twitter.com/sst__05
作成日時：2023年5月16日 0時
