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貴方.
あれから、どうにかせーちゃんの言葉を理解しようと試みても、頭に残るのは得体の知れない感情と、いつまでも答えの見つからない問いばかりで。こんなん、どんなレポートよりも訳がわからへん。
……ただ、前に進むしかないのが人生ってやつで。あんまり分からんけど、その場に立ち止まってたらあかんみたい。
春が過ぎて、だんだんと暖かくなるどころか、日中は溶けるような暑ささえ感じるようになってきた頃、せーちゃんは私をグループの全国ツアーに誘ってくれた。
「いや〜、やっぱせーちゃん男前やったなあ！皆ええ男やったけど！」
『……そうやなあ。お母さん、めっちゃ楽しんでたな』
「そらそうやん！こんなん久しぶりなんやから」
「それにしても、あのせーちゃんが……」なんて、何年前かも分からないような昔話を始めるお母さん。
せーちゃんは、私どころかお母さんまでライブに招待してくれた。お母さんはそれが嬉しかったらしく、事前にもらったペンライトを赤く光らせて、周りのファンの子に負けへんくらい楽しんでて……素直に楽しめるとこ、正直かわええなって思った。
まだまだ興奮が抑えきれないお母さんを横目に大人しく座っていると、スタッフさんがわざわざ楽屋へ案内してくれることになった。
関係者専用の入り口から入場した時点でドキドキやったのに、最後までこんな待遇やと緊張する……
何となくお母さんの服を掴むけれど、そんな私の心細さはお構いなしに、あっという間に放り出されることに。
「じゃ、せーちゃんによろしく伝えといてな！」
『え、私1人で行くん！？』
「ええやんかあ、年も近いやろ？私おったらせーちゃんにも気遣わせるし、せっかくの機会なんやからイケメンと話してき！」
相変わらずマイペースなお母さんは、別のスタッフさんに帰り道を聞いてあっという間に出て行ってしまった。
残された私はと言うと、呼びに来てくれた方の厚意を無碍にするわけにもいかず……慌てて笑顔を作って「よろしくお願いします」とだけ伝える。
楽しそうに語り合うファンの皆を眺めていると、何だか少し変な気持ちにはなるけれど、心地よい余韻に包まれて、私まで彼ら彼女らと同じファンになったような気分だった。
「じゃあ、こちらで末澤さんが待ってますので……」
『すみません、わざわざありがとうございました』
ぺこりと頭を下げれば、スタッフさんは優しく微笑んで戻って行った。
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作者名：流星
| 作者ホームページ：https://twitter.com/sst__05
作成日時：2023年5月16日 0時
