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貴方.
末「え？……おるわけないやろ、アイドルやで？俺」
微かに笑った横顔は、何だか弱々しく見えて、助手席の私はそれをずっと見ていたって良いはずなのに、どうしようもなく目を逸らしたくなった。
『アイドルでも、彼女、いたっていいじゃん……』
末「んー、まあ、せやなあ。バレへんようにやったら、許されるんかなあ」
『……だって、せーちゃんも、小島くんも、晶哉くんも、人間やんか。支えてくれる人がおらな、』
「しんどいやろ」と呟いた声が、何となく震えてしまった。
こんなの、せーちゃんたちの仕事のことを何も知らない人間の、幼稚で安易な考えでしかないのに。ファンの人の気持ちを考えたら、言うたらあかんことやのに。
自己中心的な自分への嫌悪感と、何とも言えない罪悪感で心がいっぱいになってしまった。
末「ほんっまにおまえは、どこまで純粋やねん」
『……ちゃう、そんなええもんじゃない』
末「Aはそう思ってても、俺は救われてるで」
『っわ、』
いつの間にやら私たちの家に着いていて、せーちゃんはいつも通りすんなりと車を停めてしまった。
見慣れた景色に顔を上げれば、横から伸びてきた腕にぎゅっと抱き寄せられて。いくら仲の良い幼馴染みとは言え、こんな風にハグをするのは何年振りやろうか。
いい匂いするなあ、あったかいなあ。
数年前までの私やったら、きっとそんなことを思うだけやったのに。今の私は、言葉にするのが難しい感情を、ただただ心の奥底に押さえつけるばかりで。
末「ありがとうな。でもさ、俺も小島も佐野も、ちゃんと支えてもらってここにおるから、大丈夫」
『……ほんま？』
末「ほんま。俺には、Aがおるから」
じわりと滲んだ涙は、抱き締められているから、拭うこともできなくて。
ゆっくりと離れて私の顔を覗き込んだせーちゃんは、「何で泣いてんねん」と笑って、慰めるように私の頭を撫でた。
『だって……うれしいんやもん、そんなん、』
末「うれしい？」
『せーちゃんは、私なんかおらんくても平気やと思ってた』
末「……そんなわけないやろ」
「何言うてんねん」とでも言いたげな顔をしたせーちゃんは、私の頬を撫でる。より分かりやすく伝わってくる手の温もりに、胸の奥がきゅっと苦しくなる。
末「俺、Aがおらな、もう無理やから」
どういう意味かなんて、聞けるわけがなかった。
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作者名：流星
| 作者ホームページ：https://twitter.com/sst__05
作成日時：2023年5月16日 0時
