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貴方.
『……せーちゃん、』
末「ん？」
『今日、何かの撮影帰り？』
末「おー……テレビの収録してたけど、Aが興味持つん珍しいな」
特に私の方を見ることなくそう返したせーちゃんは、赤に変わった信号に合わせて、緩やかにブレーキを踏んだ。
だって、かっこいいんだもん。そりゃ普段からオシャレさんやけど、今日は何か髪がふわふわしてる。せーちゃんが動くたびに鼻を掠める甘い匂いも、優しい瞳と時折視線が絡むのも、全部心臓に悪い。
「何となく？」と呟けば、せーちゃんは目を細めて笑った。
末「Aも、何かいつもとちゃうよな」
『へ？』
末「ん？俺の気のせい？」
『あ、や……確かに、いつもより髪巻いてるけど……よく分かったね』
末「髪か、かわええやん」
さらっとそう言ってのけた彼は、何てことのないように私の毛先に触れて、「くるくるしてるな」と呟く。
そうしてすぐに車が動き出して、せーちゃんは前を向いた。ワンテンポ遅れてどくどくと騒ぎ出した鼓動は、必死で平常心を保たなければ、家に着くまで落ち着かないような気がして怖くなった。
せーちゃんがくれる「かわいい」は、他の誰がくれるそれよりも特別で、何だか認めてもらえたような気がして。
たまに泣きそうになるほど嬉しいのは、なんで？
末「あのさ、盗み聞きするつもりはなかってんけど」
『……うん？』
末「…………彼氏でもできた？」
『へ？……だれが？』
末「Aに決まってるやん」
『……わたし？』
「盗み聞き」というワードから、さっきの友達の声が蘇る。
うるさかった心臓の音はみるみるうちに収まって、今度はよく分からない感情がぐるぐると渦巻いた。こうして次の言葉を考えている今も、お腹の底から得体の知れない感情が湧き上がるようで。
私に彼氏ができたら、せーちゃんは、もうこうして迎えには来てくれなくなるんやろうか。
『……彼氏はおらん、けど、仲良い子はおる……かな？』
末「そっか、……どんなひと？」
『うーん……優しくて、……うん、とにかくやさしいひと』
末「……そ、」
せーちゃんの相槌は、暗闇に溶けて、消えてなくなった。
余韻を残すこともなく終わりそうなこの会話に、何の意味があるのか。彼はどんな気持ちで私にこんなことを聞いたんやろう。どんなにそれが気になっても、素直に聞くことなんてできない。
『……せーちゃんは、おらんの、彼女』
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作者名：流星
| 作者ホームページ：https://twitter.com/sst__05
作成日時：2023年5月16日 0時
