21. とんでいけ ページ21
貴方.
『……いっ、たあ！』
ごつん、と鈍い音が頭の中に響いて、大袈裟かもしれないけれど脳みそが揺れた気がした。
そうしてそのまま数秒遅れてやってきた痛みと、反射的に滲んだ涙。考えるまでもなく頭を打ったのだと分かって、情けなさやら若干の苛立ちで頭が埋め尽くされる。普通に痛いし……！
正「A！？頭ぶつけた……？」
『う〜……凄い音しました……』
正「それは痛いなあ……大丈夫ちゃうよな、こっちおいで？」
私の顔を覗き込んだ正門くんは、眉を下げて心配そうな表情を浮かべた。こういうところがリア恋なんやろうなあ……なんて、的外れなことを考えながらも、彼の優しさを受け入れる。
何で正門くんと一緒にいるかと言うと、今はわっしょいのリハ中で。今回は何かと動線が同じということもあって、行動を共にさせてもらうことが多かった。同じ関西やし、特に頼れる人やし……ほんまにありがたい。
ただ、私の暗所恐怖症について知っているのは、拓哉や風雅くらいなので……こうして舞台裏を移動するのは、やっぱりちょっと怖い。そのせいで視野が狭くなって、頭をぶつけてしまったのかも。
正「ちょっと赤くなってるから、腫れるかもしれんし後で冷やしに行こな？リハはこのままいける？」
『それは大丈夫です！すみません』
正「何も謝ることないで、暗くて見えにくいもんな」
「掴まっとき？」と差し出された手に、申し訳なく思いながらもそっと腕を伸ばす。そこでようやく暗闇への恐怖心が和らいで、さっきよりも周りをしっかりと見ることができたと思う。
誰か1人でもメンバーがいてくれたら……そう思って顔を上げると、次の待機場所に彪太郎がいるのが見えた。
岡「……Aちゃん？どうしたん？」
『こたろ、』
岡「なんかしんどそうやけど、大丈夫？」
正「おお、見るだけで分かるんや」
「流石やな」なんて悪戯っぽく笑った正門くんは、私の手を優しく掴んで彪太郎に渡した。渡すって表現が合ってるんかは分からんけど、彪太郎も「ありがとうございます」と受け入れる。何のありがとう？
私たちが合流したのを見てから、正門くんはスタッフさんの方へ行ってしまった。やっぱりどこまでもお兄ちゃんやなあ……
岡「ほんまに何かあった？」
『……実は、』
頭をぶつけたなんて、この歳になっても子供みたい……恥ずかしさがバレないように、小さな声で呟いた。
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作者名：流星
| 作者ホームページ：https://twitter.com/sst__05
作成日時：2023年3月14日 1時
