69. はじめての ページ19
貴方.
正「……A、顔真っ赤」
『え！？』
正「あかんでえ、そんな分かりやすいと。正門心配しちゃう」
『や、……ま、正門くんの気のせいちゃう？』
もしも塾の本番が終わって、皆でホテルに帰る最中。
全力で演じて、掛け合いもいつになく本気でいったから……それはそれはたまらないほどの充実感を味わえたけれど、問題はそこじゃなかった。正門くんが私の顔色を指摘するほどの事件が起こったというか……何と言うべきか。
話の流れで、斗亜が一太くんにキスをすることになった。
何が起こるか分からんアドリブのお芝居がテーマやし、それ自体はまあ許容範囲なんやけど、問題はキスの仕方で。さりげなく後頭部を押さえる感じが、私も見たことのない斗亜って感じがして……
『はあ、うそ。ほんまはバチバチに気にしてます、今すぐビールでこの煩悩を流し込みたいです……』
正「待って、思ってたよりやられてない？嘘やん」
『だってえ……あんなん見たことないねんもん……』
正「……俺も野暮なことは聞きたないけど、今までそういうことがなかったってこと？」
『…………うん』
頭を抱えてしまった正門くんは、「まじかあ」と絵文字のように目をぎゅっと細めて、困ったとでも言いたげな表情になってしまった。
それもそのはず、私たちは付き合い始めて結構経つのに、ハグですらど緊張してしまうほど初心なカップルなのだ。これ自分で言うのめちゃくちゃ恥ずかしいけど、まあもうそれはこの際どうでもいい。
目の前であんなん見たら、そら意識してまうやん。
まだ経験してないそれを想像して、私も一太くんみたいに……？とか、アホみたいなことを考えて。お芝居に影響を出さないように必死に取り繕ったけど、正門くんにはバレとった。
正「まあ、そういうのんは人それぞれやから。斗亜も見極めてるんちゃう？」
『……やといいけど』
正「大丈夫やって！……ほんで、ビールなら部屋に戻ってきたら付き合ったるから」
分かりやすくにやりと笑った正門くんは、「戻ってこんでもええけどな」と私の肩を優しく叩いた。
『……へんたいめ、』
正「何とでも言うてくれ、鍵はちゃんと持ってくんやで」
『そんな遅ならんわ！ありがとうな！』
「私の分のビールもちゃんと残しといて！」とだけ言い残して、ささっとシャワーを浴びてから斗亜の部屋に向かった。
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作者名：流星
| 作者ホームページ：https://twitter.com/sst__05
作成日時：2023年2月8日 0時
