48. ページ48
貴方.
無我夢中で走っている途中、今までのことを思い出していた。
思えばずっと、斗亜は私を受け入れてくれていたと思う。大切に、優しい愛情のようなもので包み込んでくれていたような……勘違いでなければ、そのはず。
適当な理由をつけて逃げていたのは、私だけだったのかな。
弟みたいな存在だから。彼から見ても、私はお姉ちゃんみたいなものなんだろう。同世代の女の子には敵わないし、そもそも彼のお母さんに申し訳ない……だとか、そんな理由ばかり。
勇気のない自分を肯定して、それどころか満足していた。
常識的な大人ぶって、本当に欲しいものから目を背けていたと思う。
『……斗亜！』
いつも、斗亜は大きな声で私の名前を呼んでくれていた。
それなら今度は私の番なんじゃないかな、なんて。
保健室のドアを開けば、そこにいたのは椅子に座る拓哉くんと、上体を起こして、ベッドの上に座る斗亜。2人だけしかいない保健室には、薬品の独特の匂いが漂っていた。
私の顔を見て目を丸くさせた斗亜は、数秒後、すぐに拓哉くんの方を見やる。
額に当てていた保冷剤のようなものを膝の上に下ろすと、「Aちゃん」と私を呼んだ。
斗「……もしかして、西村くんから電話かかってきたん？」
『あ、うん……そう、なんだけど……はあ、ちょ、待って……』
西「Aちゃん〜……走ってきてくれたん……？」
『だって……拓哉くん、泣きそうな声してたから……』
「斗亜に何かあったのかと」と付け足して、ベッドのそばに寄る。
思っていたよりも元気そうな姿を見る限り、私たちの滞ってしまった関係性を心配してくれた拓哉くんが、そっと手を回してくれた……？なんて思ったり。
それでも、いつも真っ直ぐで素直な拓哉くんのことだから、私を騙そうなんて思っていないんだろう。
涙で潤んだ瞳を見ては、怒りなんて微塵も湧いてこなかった。
『……うん、でも、良かった。本当にしんどくない？』
斗「あ、うん……ボール当たっただけやから、おでこ腫れてるくらいで」
『そっか……良かったあ、』
西「Aちゃん、もう後は授業大丈夫やから、斗亜のことお家まで送ってくれますか？」
斗「え？……いやいや、そんな、斗亜ひとりで大丈夫やから」
拓哉くんの気遣いに、斗亜の遠慮。
2人に挟まれて、私が出した答えはたったひとつ。
『……心配だから送って行くよ、帰ろ？』
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 611人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
流星(プロフ) - あっぷるさん» あっぷるさん、ありがとうございます（ ; ; ）私も2人が大好きで、完結までちゃんと書けてほっとしております〜！新作も執筆中ですので、もし宜しければそちらもよろしくお願いいたします！優しいお言葉、ありがとうございます！(^_^) (2022年12月8日 23時) (
レス) id: cbee6a2da8 (このIDを非表示/違反報告)
流星(プロフ) - みすぅ〜たんさん» みすぅ〜たんさん、ありがとうございます（ ; ; ）書きたい！と思って書いていた作品をこんなふうに褒めていただき、本当に嬉しく思います！コイワズライという斗亜くんが主役のお話を執筆中ですので、もし宜しければそちらでもよろしくお願いいたします！(^_^) (2022年12月8日 23時) (レス) id: cbee6a2da8 (このIDを非表示/違反報告)
あっぷる(プロフ) - 完結おめでとうございます！こじとあ大好きな私には本当に最高の作品で...いつも楽しく読ませていただいてました(^^)新作が楽しみすぎて思わずコメントしちゃいました♡とっても楽しみにしてます！ (2022年12月5日 1時) (レス) @page50 id: 703ded6795 (このIDを非表示/違反報告)
みすぅ〜たん(プロフ) - 完結おめでとうございます！この作品を楽しみに毎日過ごしてたと言っても過言ではありません、、作者さんの素敵な言葉遣いや文字面だけでも斗亜くんや小島くんを思い浮かべられるような性格やセリフで、最高でした♡また斗亜くん主役のお話待ってます⭐︎ (2022年11月24日 2時) (レス) @page50 id: b38fd00c88 (このIDを非表示/違反報告)
流星(プロフ) - ちいさん» ちいさん、コメントありがとうございます！そう言っていただけて本当に嬉しいです…（ ; ; ）そちらの方も近いうちに書きたいと思っていますので、どうぞよろしくお願いいたします！ (2022年8月24日 0時) (レス) id: e764027ef8 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：流星
| 作者ホームページ：https://twitter.com/sst__05
作成日時：2022年8月3日 13時
