動き出せ、初恋《 Yoshinori.M 》 (ページ3)

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貴方.

『……ん？このコードが？どうなってる？今』

正「何でそんな押さえ方なんの、待って待って(笑)」

『分からへんねんもん！』

正門くんが私を「A」と呼ぶようになった頃、彼は小島、そして佐野くんとバンドをやることが増えていた。私も何か武器を増やしたいなあ……そんなことを嘆いていたら、正門くんはレッスンの合間を縫って、私にギターを教えてくれるようになった。

高校二年生になった私と、高校を卒業した正門くん。途端に歳の差や性別の差を感じて、少しずつ気まずくなることもあった。

正「……A、手ちっちゃいな。そら押さえにくいわ」

『え？そんな変わらんよ、……って』

私の手を掬い上げたかと思えば、自身の手と重ね合わせる。「ほら」なんて屈託のない笑みを向けられては、こんなに意識しているのは私だけなんじゃないかとまで思ってしまう。

特に好きな人ができたことはなかったけれど、正門くんといると凄く楽しかった。心の底から落ち着いて、リラックスできていたのだと思う。一緒にいてドキドキして落ち着かない人じゃなくて、なぜだか心が安らいで、眠たくなってしまうような人こそが好きな人だとしたら……正門くんは、確実に後者だった。

『……正門くん、そういうこと、他の女の子にもしてるん？』

正「ええ？女の子……Aとしか喋らんよ」

『そういうことちゃうんやけどなあ』

天然で鈍感な正門くんには伝わらんかあ……晴れそうもないモヤモヤを抱いたまま、再びギターを抱え直す。コードを完璧に覚える頃には、正門くんに好きって言えてるんかなあ……少なくとも、私みたいなヘタレには無理やと思う。

生意気にも、一歩進んだ関係性になることへの興味よりも、心地いい今の関係が壊れてしまうことへの恐怖心の方が大きかった。

正「……うそうそ、Aにしかせえへんよ。分かってよ」

『え？』

正「ほら、また変なことなってるで。ちゃんと覚えな弾かれへんままやで」

「一緒にやるんやろ、バンド」と目を逸らした正門くんの耳は、目視で分かるほど赤く染まっていた。

全てに対してふんわりとした感情しか持っていなかった私の毎日は、特に何も起こることがなく過ぎていく。ただ一つ変わったことと言えば、なぜか番組に呼ばれることが増えただけだった。