動き出せ、初恋《 Yoshinori.M 》 (ページ6)

今日:84 hit、昨日:72 hit、合計:245,422 hit

6. ページ6

貴方.

『や、ええの？未成年にこんな酔っ払いの面倒見させて』

大「正門がAに会いたいってうるさいねんもん」

『……知らんよぉ。そんなんテキトーに言うてんちゃうん？』

無事に受験を終え、私は晴れて大学生になる権利を得た。季節はどんどん春に向かっていたけれど、その日はまだ寒かったと思う。仕事終わり、大ちゃんから電話がかかってきたかと思えば、指定された場所にいたのは潰れかけの正門くんで。因みに明日も仕事だと言う大ちゃんは、一滴も飲んでいないらしい。

まだお酒の味すら知らない私でも、正門くんは強い方だと聞いていたのに。顔を真っ赤にさせてテーブルに突っ伏す姿は、お世辞にもお酒が強い風には見えなかった。

大「こいつがAの名前間違えるわけないやん」

『そんなん分からんって。……でも、こんなんなってるのは初めて見たかも。疲れてるんかな？』

大「あ〜……うん、まあ、そういうことにしといたろ」

『大ちゃん？』

正門くんの手からジョッキを奪い取ると、離れた場所にそれを置く。「いつまで飲むか分かったもんちゃうからなあ」と呟く大ちゃんは、きっと酔っ払った正門くんに苦労させられてきたんだろう。二人にしか分からない関係性らしいものは、こちらとしても少し微笑ましかった。

ぴょこんと跳ねたアホ毛を指で撫でつけると、正門くんは勢いよく顔を上げる。

『……あ、起きた？え、こういうときって水飲ますんやっけ？』

大「おん、そこにあるやつ飲ませといて」

『はぁい』

じいっと私を凝視する正門くんは、なぜか何も言わない。少し不安だけど「飲める？」と水の入ったグラスを渡せば、手首をぎゅっと掴まれて、ちょっとびっくり。溢さないようにそっとグラスを避難させると、やっぱり彼の視界に水は入っていなかったのだと分かる。

あっという間に手を握られて、そしてそのまま柔らかく笑った。

正「Aがおる……」

『そらおるよ、呼んだん正門くんちゃうの？』

正「ええ、そうやっけぇ？」

大「おい、俺が嘘ついたみたいになるやろ」

『ふふ、』

ふにゃふにゃとした口調で話す正門くんは、小さな子供みたいで可愛く見えて、普段は見られない姿に思わず笑みが溢れた。握られたままの手が熱いのは、気付かないふり……