44. 初恋 ページ44
貴方.
「Aちゃん！ここにお願いします！」
『はいはい、ええよ〜。でも皆急にどうしたん？サイン欲しいって』
「いつお願いしようか悩んでたんです、もう今日しかないと思って」
『なるほどなあ……いくらでも書いたるから、欲しい子は順番に並ぶんやで』
キラッキラの瞳で見つめられては、断る理由もなく……サインペン片手に、ちびっこたちのサインおねだり攻撃に応えていた。正直こんなにお願いされると思ってなくて、びっくりしたのと同時にとっても嬉しい。
今日は念願の正門くんソロコン、千穐楽。タイミングが合う日がこの日しかなかったと言う、逆に運命的な日で……因みに大ちゃんは初日、廉くんはその次の日という、同期でも見学のタイミングは異なっていた。スタッフさんにも「愛ですねえ」なんて揶揄われたし、ファンの子の間でも話題になってるんやろか。それはちょっと恥ずかしい。
『皆みっちーとか大橋くんのは？いらんの？』
「今度お願いしてみます！」
『そうやね、直接もらった方が嬉しいし……はよ会えるといいねえ』
流石に息子と言うのは無理がある歳の差だけれど、気分的にはそんなところで。小さな丸い頭をぽんぽんと撫でて、また次のサインへ。書いては撫でて、書いては撫でて……まるで流れ作業のようだけれど、私からしたら大切な時間。
「ありがとう」と一人一人に伝えていると、シャワーを浴びて来たらしい正門くんがやって来る。
『あ、お疲れ様！めっちゃ良かったよ、』
正「ありがとうなあ、まさか今日来てくれるとは思わんくて」
『丁度今日しかなかったんよね。ラスト見守れて良かった！』
正「俺もAおったから頑張れたわ、……ほんで？サイン会でもしてんの？」
濡れた髪をタオルで拭きながら、私の手元を覗き込む彼。ふわりと香るシャンプーの匂いに、思わず顔が熱くなる。近い……なんて、この子たちの前で言えないし。変な空気感にするわけにはいかない。
「そうやねん」と返せば、くすくすとおかしそうに笑う。
正「大人気やん。良かったなあ、皆Aちゃんにサイン書いてもらえて」
「はい！」
正「俺も貰おかな、」
『……ちょっと』
彼の胸板を軽く押せば、「欲しいねんもん」なんて笑う。さっきまでたくさんの女の子を沸かせていたとはとても思えないほど、やっぱり穏やかな笑顔だった。
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