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貴方.
『……椿くん、何読んでるの？』
椿「ん？……ああ、小説、」
『へえ、好きなんだね。本読むの』
椿「それなりに……？」
皆に続いて部屋に戻るのも何だかなあと思い、椿くんの隣に腰をおろした。寝るにしてもまだ余裕がある時間だったから、どうせならあまり話せない椿くんと話してみたい。話せなくはないけれど、活発なぐれくんに比べると、どうしてもチャンスを逃してしまって……
「今度読んでみる？」と栞を挟んで本を閉じた椿くんに、こくりと頷いた。
『ごめんね、邪魔しちゃった？』
椿「……そんなことない」
『そっか、それなら良かった……ほら！椿くんと二人でお話しすることって中々ないでしょ？せっかくだしと思って』
椿「ふふ、それもそうだね」
いつもより幾分か柔らかく微笑んだ椿くんは、「そうだ」と立ち上がった。冷蔵庫を開いて何かを取り出すと、それを慣れた手つきで私の前に置く。
ふわりと香るほうじ茶の匂いに、何だか穏やかな気分になった。椿くんが取り出したのは、恐らく試作中のパウンドケーキ。そっと添えられた生クリームは、見るからに相性が抜群だと思う。椿くんの作るそれは、本当に美味しいから。
椿「食べれそうなら感想が欲しいと思って」
『ふふ、有り難くいただきます！』
椿「……はい、どーぞ」
両手を合わせてから、フォークをパウンドケーキに刺す。丁度いい柔らかさで、口に入れた瞬間にほうじ茶の香りが広がった。溶けてなくなるというよりかは、何度か噛み締めて楽しむことができる食感だと思う。生クリームもやっぱり合うな、
私の表情を見てもう分かったのか、椿くんは頬杖をつきながら「気に入った？」と笑う。
『うん……！すっごく好き！香りもキツすぎないし、これなら甘いものが苦手な人でも食べられそう！生クリームも後味すっきり！』
椿「……良かった。Aが喜んでくれるのが一番だから」
『え？……ほんとに？』
椿「うん、」
それはそれは優しく笑う椿くんに、何だか胸の奥がきゅっと掴まれたみたいだった。苦しいというよりかは、息が詰まる感覚というか。……あれっ。それを苦しいって言うんだっけ？
何となく返事ができなくて、パウンドケーキを口に詰め込む。途端にふわりと広がる幸せな味に、ほんの少しの違和感も消えていった。
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