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貴方.
椿「お、おはよ、A」
『椿くん、おはよう』
椿「……花の方は大丈夫なの？」
『うん、もう今日は様子見するだけかな。接客の方は任せてね』
椿「そう、……ありがと」
朝はまともに話せなかったものだから、厨房で挨拶を交わす。そんな私たちを気遣ってかは分からないけれど、三人は表に出て常連さんとお話していた。いつもより静かな厨房には、椿くんが作業をする音だけが響き渡る。
無言は苦痛にならなくて、それどころかどこか落ち着く。椿くんがお菓子を仕上げていく姿を見るのも、やっぱり楽しかった。
椿「……昨日は、なんか無理やり連れて帰っちゃったけど、」
『ううん、そんなことないよ。今思えばちゃんと帰れた自信もないし……凄く助かったもん』
椿「本当？」
『うん。……それにさ、私びっくりしたの。皆と過ごす朝が、穏やかで楽しくて』
椿「……そっか、」
『毎朝一人でバタバタしてたから、何か新鮮で』
食器を片付けながら、今朝感じたことを椿くんに伝える。私のことを考えて提案してくれたのだから、それが間違いだったとは思わない。あんなに怖くてたまらなかったのに、いつの間にか笑えていたんだから。それはきっと当たり前にできる気遣いじゃない。
椿「……前向きに考えてよ、うちに住むの」
『椿くん……あの、本当に迷惑じゃない？女一人が加わるだけで、皆生活しづらくなっちゃいそうで』
椿「迷惑だったら誘わないし、ていうか僕もAじゃなかったら助けてないよ」
『……ほんと？』
椿「嘘つくの苦手なんだけど」
いつものようにプレートに盛り付けていく椿くんの頬は、ほんのり赤みを帯びていた。不器用だけど、素直で、照れ屋な彼のことだから、確かに嘘ではないと思う。だとしたら私に必要なのは、飛び込む勇気だけだ。
すると、そんな私たちの会話を聞いていたのか、三人が一斉に厨房へ戻ってくる。
ぐ「俺も賛成！Aちゃんもいたらもっと楽しくなるよ」
と「はい、毎日賑やかになりますね」
ス「皆こう思ってるよ、Aちゃん。……もう家族も同然なんだから、遠慮しないで」
『皆……』
「おいでよ、A」なんて、椿くんが笑った。……思えばこのときから、私の恋は始まっていたのかもしれない。
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