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貴方.
『……よし、完了！』
ひんやりと冷える夜空の下、店頭の掃除を終える。本当はまだ怖いけど……いつまでも逃げているわけにもいかないし、どんなに暗くたって平気にならなくちゃ。そんな思いで、ここ最近はクローズ作業の掃除を自ら希望するようにしている。
皆心配してくれるけど、これからも鹿楓堂の役に立ちたいから。私だけ逃げるわけにはいかないもんね。
「すみません、お姉さんってここの人？」
『はい！……あ、でももう営業時間外でして、』
「ちょっと聞きたいことがあるだけなんで！」
『そうなんですね。何でしょう？』
表の方から歩いてきたのは、私と同年代くらいの男の人二人組。ニコニコと人当たりの良さそうな雰囲気で、「ごめんね」と手を合わせてくれる。フレンドリーだなあ……なんて思っていると、グッと腕を引かれた。……あれ、
「うわ、マジで可愛いじゃん。しか……ろくほうどう？の看板娘ってお姉さんのことー？」
「着物着てるのも可愛いね〜！お姉さん、彼氏とかいる？男ばっかりじゃん、ここの従業員」
『……え、あの、……聞きたいことって言うのは、』
「ああそんなの嘘だよ。お姉さんに会いに来たの、俺ら」
……道案内とか、そんなところだと思った私がバカだった。
足が震えて、力が入らなくて。走って逃げ出せばいいはずなのに、上手く歩けそうもない。大声を出す？……いや、そんなことしたら大事になってしまう。近所の方に迷惑をかけるかもしれないし。こういうときは毅然とした態度でいなきゃダメなのに、
そんな私の気持ちとは裏腹に、じわじわと涙が滲んでくる。純粋な恐怖と、……何もできない自分への情けなさ。
「え、泣いてる？大丈夫？」
「俺らとあっち行って休憩しよっか。毎日働いてたら疲れるでしょ〜？たまには癒しも必要だもんね」
「そうそう、行こ？」
やっぱり私、何も変われなかった。守られてばかりのお荷物で、……一人じゃ何にもできない。皆が優しいだけで、そうじゃなかったらきっと必要とされないだろうから。
零れ落ちた涙が、胸元に染みを作る。力が抜けた体をそのまま引き寄せられて、ああもうダメだ、なんて思った。
「……触らないでくれますか？」
決して人付き合いが得意ではないのに。面倒事は避けたいタイプなのに。……何でいつもヒーローみたいなタイミングで助けに来てくれるの？
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